虚像の千本桜

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 薄いもやのかかる四月の朝。丘の上にある高校の校舎は、青みがかってよく見えない。  冬の名残りのキンと張り詰めた空気が肌をさす。大きく息を吸い込むと、大輔の鼻奥がツンと痛んだ。  生徒が登校するには早い時刻。赴任先の高校へ続く坂道を、ひとりのぼっていた。  新しい職場への初出勤。教師になって七年になるが、これほど緊張する朝はない。昨夜はなかなか寝付けず、早朝に家を出た。  下ばかり向いていた顔をふっとあげると、坂道の通学路のそばに、小さな公園があった。  放課後、生徒たちが立ち寄るにはかっこうの場所だ。背広のポケットからスマホを取り出し、時刻を確認する。まだまだ、出勤時間に余裕がある。    公園入口のアーチ型の車止めをすりぬけ、中へ入った。遊具は滑り台とブランコだけ。そして、奥には大きな一本の桜の木が立っていた。  ソメイヨシノが満開に咲く時期なのに、その桜は花がようやくひらき始めたころ。花だけでなく、新芽も同時に芽吹いていた。 「あー、これは山桜か」  誰に言うでもなく、大輔の口から言葉がこぼれ落ちた。
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