うそつきエイプリル

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 かわいいエイプリル。  きみが好きさ。  ぼくの家はきみのおとなりさんで、初めてオーラリア小学校に通い始めた頃から、ずっと一緒。  校庭で、きみがぼくにキスして、ふたりしてブラウン校長先生の部屋に呼び出されたのは、1年生のとき。 「だって今日はエイプリルフールだし、わたしの誕生日なんだもの!」  きみは校長先生に、もの申した。  まあ、きみの誕生日っていうのは、ほんとうだよね。  じゃあ、あのキスは?  ジョークだったのかなあ。  2年生のときは、カフェテリアでランチのお盆を持っているとき。  ぼくは、大好きなマック&チーズを、ちょっとこぼしちゃった。  3年生のエイプリルフールは、ちょうど学校に消防車が来てくれて、中を見学させてくれたんだ。  みんな順番に並んでた。きみはぼくの前に並んでたリオを押しのけて割り込んだ。消防車の中に入って、まわりが暗くなった瞬間、きみはぼくにキスした。  4年生のときは、帰りのスクールバスを降りた、そのとき。  走り去る黄色いバス。  走り去るきみの背中でゆれるバックパック。  5年生になった。  今日は日曜日。ママがパパのコーヒーカップに気の抜けたコーラをそっと注いでいるのを見て、ぼくは今日が何の日か思い出した。  ぼくは庭に出て、おとなりさんの窓に小石を投げた。もちろんすごく小さな石さ。  エイプリルはもちろん窓から顔を出した。 「何の用?」  ふきげんそうな顔も、やっぱりかわいい。 「きみは、かわいいよ」  ぼくは呼びかけた。 「ジョークのつもり?」  今度の秋から、ぼくときみは、別々のミドルスクール。それを知ったときから、きみはふきげん。ぼくにすごく冷たい。 「お誕生日おめでとう」  ぼくは言った。 「今年は、キスしないの?」  エイプリルは真っ赤な顔になった。 「だいっきらい。ばか」  窓が閉まった。  かわいいエイプリル。  ぼくだって、今日じゃなくちゃ、こんなこと言えないよ。  ほら、階段をあわててかけおりる音がする。  ぼくは庭に咲いていたチューリップを、ひとつ手折った。ピンク色。きみのほっぺたの色。  きみはもうすぐ芝生にかけこんでくる。  さっきの『だいっきらい』はウソだって、言ってくれるかな。  かわいいエイプリル。  きみが好きさ。 「だいっきらい」  エイプリルはいきなりスプリンクラーを作動させた。  チューリップを手にした、びしょぬれの、ぼく。 「だいっきらい」  ぼくは、うそつきなエイプリルの唇をふさいだ。   「キスが下手ね」  ジョークだよね。 「好きだよ」  びしょぬれのぼくは言った。  まだ、ぼくらのまわりを飛び跳ね続けている、水しぶきたち。 「うそつき!」  うそばっかりに、本気を混ぜて、生まれたばかりの虹にする。 《完》
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