正直者のデクスター

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 誰かの失敗などを尋ねられると正直に言ってしまうし、人の秘密なんかも尋ねられると全部本当のことを言ってしまう。そのせいで、ヒデキはだんだんとみんな避けられるようになっていたし、他のクラスメートたちの不信感も募っていたと思う。嘘吐きが嫌われるならともかく、正直者だから嫌われるっていうのはなんとも皮肉な構造だろう。人間のコミュニティってやつは本当に難しい。俺も、当時はちょっとヒデキのことを気味が悪いと持っていたから、人のことをどうこうは言えないのだけれど。  そんな風に、クラスから孤立していったヒデキである。一部の悪ガキ連中から、いじめの標的にされるようになるまではそんなに時間がかからなかったように思うのだ。クラスで他の子が見ていてもおかまいなしに、そいつらはヒデキを取り囲んでぐちぐちと絡むようになっていた。俺を含め、みんながそれを見て見ぬフリしていたのはいじめられたくない以上に、同じようにヒデキに対して苛立っていたからというのもあるのかもしれない。  その日も、ヒデキは男子達に取り囲まれて、インネンをつけられていた。俺は、どうしても気になってしまって、席に座ってその時の会話を全部盗み見ていたし、聴いていたのだ。 『お前、何でもかんでも正直に言いすぎ。俺も正直に言うけど、お前みたいなやつ友達にしたくねーし、ぶっちゃけキモい!』 『嘘をつくのがダメってやたら言うけどよー。人の秘密をベラベラ喋るのは嫌われるって、お前のかーちゃんに教わらなかったわけぇ!?』 『ほんとそれな』  そいつらの物言いは酷かったが、“人の秘密をベラベラ喋るのは嫌われる”に関しては同感だった。彼は、それがわからないくらい頭が鈍かったのだろうか。 『知ってるけど、嫌われてでもいいから嘘をついちゃいけないって言われたんだ』  そうではなかった。  ヒデキは、秘密を喋るのがいけないということ、人には隠したいことがあったり素直に言わない方が良いこともあるということを知っていた。知っていたのに、彼にはどうしても何もかもを正直に言わなくてはいけない理由があったというのだ。それは。 『僕の家は、とっても古い家なんだって。正直者のデクスターって人が始祖で、その血を継ぐ人は代々嘘をついたいけない決まりになってるんだよ。嘘吐きは泥棒の始まりってことわざがあるけど、僕達の場合はもっともっと大変なことになっちゃうから、絶対に嘘をついちゃいけない。僕だって嫌われるのは嫌だし、みんなと仲良くしたいけど、ママとパパの教えだから絶対に守らないといけないんだ』
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