正直者のデクスター

1/5
前へ
/5ページ
次へ

正直者のデクスター

 これは俺が小学生だった時のことだ。  クラスメートに“ヒデキ”って名前の男子がいた。容姿は――超イケメンでもなければ超不細工でもなく、太ってるわけでもなければ痩せてるわけでもないという、はっきり言ってかなり平凡な見た目だったってことしか覚えてない。小学生男子の興味なんてそんなもんだろう。滅茶苦茶仲良しだったり嫌いだったりした奴なら多少印象は残るけど、そうでもなければ同性への関心なんてその程度。まあ、今から思うと俺の記憶にぼんやりとしか残ってないのは、“それだけ”が理由ではないのかもしれないけれど。  ヒデキの見た目に関してはざっくりとしか覚えてないけど、どういう奴だったのかに関してははっきり覚えてる。そいつは、稀に見るような“正直者”だったんだ。そのせいで嫌われることもあるレベルの。要するに、何でもかんでも素直に本当のことを言っちゃうっていうアレ。例えば。 『消火器が酷いことになってるんだけど!誰がやったか、知っている子は正直に言いなさい!』  消火器の中身が廊下にぶちまけられるっていう、ちょっとした大惨事が起きたことがあって。恐らく、そいつは消火器を踏み台にして、窓の高いところにでも手を伸ばそうとしたんだと思う。普通消火器って、ピンを抜かないと中身が出ないようになってるはずなんだけど――そいつはピンを抜いちゃったのか、あるいは小学生の体重に耐えられるほどのレバーの強度がなかったのか。  俺は本当に心当たりがなかったから、黙ってた。でも、なんとなくどのあたりの連中がやったのかは察してたし、みんなもそうだったと思う。そういう悪戯を面白がってやりそうな奴とか、突拍子もない行動をやりそうな奴はクラスでも限られてたからだ。その数人のうちの誰かなんだろうな、っていうのはみんななんとなく分かっていて、それでも黙っていたんだと思う。  というか、クラス全員が集まっていてみんなが見ている状況。正直に手を挙げて発言する勇気がある奴っているもんだろうか?だってそこで名乗り出たら、みんなの目の前でお説教が始まるかもしれない。そうしたら、いわば公開処刑も同然だ。そうでなくても名乗った時点でみんなにくすくす笑われるのは必至だろう。狭い子供達のコミュニティでそんなこと、想像するだけで怖すぎて俺には絶対無理だ。  まあ、この話の流れでなんとなくわかったと思う。ヒデキが、正直にぶっちゃけてしまったのである。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加