正直者のデクスター

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 その日の昼休みの時間。森少年は、本当に事故に遭ったのである。学校の駐車場にあるシャッターが突然勢いよく閉まって、彼は両足を挟まれてしまったのだ。先生の一人が見ている目の前だったという。俺はその時教室にいたけれど、離れた教室まで聞こえるほど凄まじい悲鳴だった。  電動のシャッターで、ボタン一つで自動で開閉できる仕組みになっていたらしい。小学校にあるにしてはハイテクなそれは、去年防犯のため設置されたばかりのシロモノだったという。異物を挟んだら自動で動きが止まる仕組みになっているはずが、シャッターは少年の足を挟んでも止まらず閉まり続けていたというのだ。どうにかシャッターが止まった時には、彼の両足は無残にもぐちゃぐちゃに潰されて、骨も肉もミンチに近い状態だったという。当然普通の治療でどうこうすることはできず、彼は両足を切断してどうにか一命を取り留めたのだそうだ。  ヒデキが叫んだ“嘘”を、聴いていたクラスメートが多かったことだろう。  もしかしたら、本当にヒデキが言ったせいで、彼の“嘘”が現実になってしまったのではないか。偶然だとしても、もう一度彼に嘘をつかせて真実を確かめる勇気がある人間は誰もいなかったのである。  確かなことは一つ。  放課後、そのニュースを改めて先生から聴かされた時、ポツリとヒデキがこんなことを口にししていた事実のみ。 『だから、言ったのに。……僕は絶対、嘘吐きになれないのに』  後日。  彼が、白衣の大人の人に連れられて歩いているのを、俺は目撃することになる。彼のような特別な“存在”を研究する機関でもあるのだろうか。俺達が知らないだけで、ヒデキみたいな人間や動物、不思議な物体はこの世界の至る所に溢れているのかもしれない。  彼が白衣の人と一緒にいるのを目撃した翌日、先生がヒデキが突然転校していったことを俺達に告げた。俺達はそれ以来、まるでタブーのように彼について口にしなくなったのである。  ヒデキが今もどこで“正直者”をやっているのかは、もはや誰にもわからない。
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