2人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
スタート
俺は会社も辞め、部屋に引きこもっていた。
カーテンも閉めて暗闇の中で一人きり。
半透明のビニール袋に手を突っ込む。昨日、中古のゲーム屋で買ったゲームソフト。
タイトルは〝さよなら勇者〟。
なぜかそのタイトルに惹かれて買った。
ソフトをゲーム機に差し込んだ。
画面にはタイトルが表示されると共に、不気味な音楽が流れてくる。やけに耳に残る重苦しい音楽。一番初めに名前をつけるみたいだ。
〝あなたの名前は?〟
〝タケシ〟
自分の名前を入力。
〝悪魔の名前は〝タケシ〟になりました〟
ん?悪魔?
〝このゲームは悪魔が勇者を倒していくRPGです〟
悪魔が勇者を倒す?普通は勇者が悪魔を倒すんだけどな。変だなと思いながらも、ゲームを始める事にした。
コントローラーを握り締めながら、画面にかぶりつく様に進めていく。
悪魔は初め小さな体をしていたが、小さな勇者たちを食べる事により体が大きくなり、レベルもHPも上がっていった。
「でも、なんか物足りないな」
カップラーメンを片手に呟く。
大きな勇者が悪魔の前に立ちはだかる。
おっ、こいつは手応えがありそうだ。
〝勇者の名前を入力して下さい〟
勇者の名前か。
ふと、辞めた会社の事を思い出す。
俺はあの会社の社長にバカにされ、追い出されたようなもんだった。
「お前は仕事も出来ないクズだ!」
「ゴミだ!埃だ!それ以下だ!」
にっくきあの顔は忘れるものか!
〝イソベ社長〟
社長の名前を入力。
俺はニヤリとしながら、勇者を食ってやった。
〝タケシがイソベ社長を殺しました〟
いい気味だ。ざまぁみろ、社長!
さぁ、この辺にしてまた明日にするか。
俺はゲーム機の電源を切り、布団へと潜り込んだ。
次の日、スマホのアラームで目覚めると、触ったスマホに赤い指紋が付くのに気付いた。
「うわぁぁぁ!!」
俺の両の手のひらは血塗れだった。
最初のコメントを投稿しよう!