スタート

1/1
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ

スタート

俺は会社も辞め、部屋に引きこもっていた。 カーテンも閉めて暗闇の中で一人きり。 半透明のビニール袋に手を突っ込む。昨日、中古のゲーム屋で買ったゲームソフト。 タイトルは〝さよなら勇者〟。 なぜかそのタイトルに惹かれて買った。 ソフトをゲーム機に差し込んだ。 画面にはタイトルが表示されると共に、不気味な音楽が流れてくる。やけに耳に残る重苦しい音楽。一番初めに名前をつけるみたいだ。 〝あなたの名前は?〟 〝タケシ〟  自分の名前を入力。 〝悪魔の名前は〝タケシ〟になりました〟 ん?悪魔? 〝このゲームは悪魔が勇者を倒していくRPGです〟 悪魔が勇者を倒す?普通は勇者が悪魔を倒すんだけどな。変だなと思いながらも、ゲームを始める事にした。 コントローラーを握り締めながら、画面にかぶりつく様に進めていく。 悪魔は初め小さな体をしていたが、小さな勇者たちを食べる事により体が大きくなり、レベルもHPも上がっていった。 「でも、なんか物足りないな」 カップラーメンを片手に呟く。 大きな勇者が悪魔の前に立ちはだかる。 おっ、こいつは手応えがありそうだ。   〝勇者の名前を入力して下さい〟 勇者の名前か。 ふと、辞めた会社の事を思い出す。 俺はあの会社の社長にバカにされ、追い出されたようなもんだった。 「お前は仕事も出来ないクズだ!」 「ゴミだ!埃だ!それ以下だ!」 にっくきあの顔は忘れるものか! 〝イソベ社長〟 社長の名前を入力。 俺はニヤリとしながら、勇者を食ってやった。   〝タケシがイソベ社長を殺しました〟 いい気味だ。ざまぁみろ、社長! さぁ、この辺にしてまた明日にするか。 俺はゲーム機の電源を切り、布団へと潜り込んだ。   次の日、スマホのアラームで目覚めると、触ったスマホに赤い指紋が付くのに気付いた。   「うわぁぁぁ!!」 俺の両の手のひらは血塗れだった。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!