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第2章~気持ち~
女というものは、自分を見てくれてる人がいるということだけで自信がつくらしい。
「アサミ、なんか今日可愛い」
つぐみから言われるとほんとに自分が可愛くなった気になる。
いつもより早く起きて、納得のいくまで前髪とサイドのカールをセットした。
「うそぉ~いつもと変わらないよ」
(早起きしてキメてきたなんて言えないわ)
朝の自転車置場。
そこで森田くんに会えるかどうかで、その日のテンションが決まる。
(いた!今日はいい日だー)
彼がチラッとこちらを見た。
少し微笑んだように私には見えた。
(え?!)
再び思った、絶対に断ろう!佐久間くんとのこと、勘違いされるのは嫌だ!
その瞬間、バン!と肩を叩かれた。
「おう!お前昨日告られただろ?」
同じ中学からこの高校に入学した重野だった。
「なんで知ってんの?!」
「サッカー部じゃ、有名だぜ、昨日佐久間がお前に告白したって」
(あいつ!)
「どうすんだよ、付き合うのか?」
「重野に関係ないでしょ!」
「まぁな、お前が誰と付き合うかなんて興味ねぇし」
(じゃー聞くなよ!バカ!)
「あ、知ってっか?最近、森田さ、バスケ部の3年生と付き合い始めたらしいぜ!年上の女」
地獄に突き落とされた気持ちになった..
「うそ!?誰?だれと?」
女子バスケ部の部長で、誰が見ても綺麗と言うであろう、あの人だった。
ショックだった...
年上なんて...
その日は、授業なんて1つも頭に入らなかった。
あの3年生の女に怒りさえ持ち始めていた。
(なんで、同じ学年と付き合わないで、年下と付き合うんだよ!)
「アサミ、なんかあったの?怖い顔してる」
「あたしさ、佐久間くんと付き合うことにした!」
(やけくそだ!)
「え?なんで?いいの?それで」
「別にもうなんでもいいの」
(もうどうでもいいし!)
昼休み、私は返事をした。
その事はすぐに広まってしまった。
その頃の付き合うというのは、学校内で2人で話をしたり、家の電話で話をするぐらいの程度のものだった。
「原田さん!今日8時に電話するから」
「あ、うん、わかった...」
付き合ってるのに、全然ルンルンじゃなかった。
きっかり8時に電話がきた。
佐久間くんは、一方的に喋りまくる人。
重野からも聞いていたけど、その通りだった。
「じゃ、また明日学校でね、昼休みいつものとこで!」
「あ、うん、また明日ね」
好かれているのは嬉しかったけど、なんか楽しくなかった。
いつも森田くんとあの先輩の顔がチラついていたのだ。
(同じ部活で付き合ってるなんて、ズルい!)
なんでバスケ部に入らなかったんだろうと後悔した。
(絶対、あの先輩が森田くんに告白したんだ、言いくるめられたんだ)
女はどういうわけか、相手の女を敵に回し、嫌な女と思い込んでしまう事があるらしい。
私だけかもしれないけど....
「アサミ、今日あたし、板戸工業高校の人に呼び出されたの」
「え?また告られに行くの?」
(つぐみは凄いわぁ)
「今回はちょっとタイプの人だから」
「え!付き合うの?」
「たぶんね、明日報告するから。だから今日は一緒に帰れないの、ごめん」
「大丈夫!」
さっさと帰ればいいのに、どうしても気になることを見に行った。
体育館に足が向いていた。
あの先輩は居なかった。
(あれ?今日はあの人いない、部活休みなのかな?)
体操部、男女バスケ部が練習していた。
男子はパス練習、女子はゴール前でシュート練習。
(森田くん、やっぱりカッコいい...やっぱり)
本当だったら、佐久間くん見に行かなきゃならない立場なのに...
ちょっと可哀想に思えたから、体育館を後にして校庭へ向かった。
気付かれないように隠れて、サッカー部の練習を見ていた...
(あれ...)
少しだけドキッとした。
佐久間くんが一瞬だけカッコよく見えたのだ。
そして、あの重野も。
男子が、スポーツをしてる姿は、誰でもカッコよく見えるのかもしれない。
すごく男らしく見えた...
と、その時、誰かが私に気付いてしまった。
案の定、佐久間くんはメンバー全員につつかれていた、重野を除いて...
佐久間くんが照れてるっぽい。
(やばい!彼女だって思われちゃう)
とっさに思った自分にビックリした。
あたし、佐久間くんの彼女なのに、なんでこんなこと思っちゃったんだろう...
少しづつ自分のしていることが、申し訳なく思えてきた...
「もしもし、重野さんのお宅でしょうか?私、原田と申します。和真くんいらっしゃいますか?」
重野に相談したくて、電話した。
「原田?どした?あ、お前さ、今日練習見に来てただろ~?」
「うん」
「佐久間、喜んでたぜ、練習見に来てくれたって、さすが彼女だな!」
(違う、違うの)
「重野、あたしさ、やっぱり佐久間くんの彼女辞めようかと思ってる」
「なんでだよ、佐久間のこと嫌いなのか?」
「違う、そうじゃなくて、好きになろうと努力したけど、やっぱり無理みたい」
「じゃなんで、付き合うことにしたんだよ」
「重野には正直に言うけど、あたしさ、やっぱり森田くんが好きなの、森田くんが3年生と付き合ってるって聞いて、なんかやけくそになって...」
「そっか、それじゃあ...佐久間が可哀想だな」
そう言ってしばらく重野は黙ったままだった。
そして優しく言った。
「自分でちゃんと言えるのか?」
「うん」
「俺は佐久間とダチだから、あいつ側につくけど、原田の気持ちも理解してるから」
重野の言葉に優しく包まれて、少し変な気持ちになった。
(重野と付き合ったら、いつもこんな感じなんだろうなぁ)
「原田、佐久間のことは俺に任せとけ」
「うん、ありがと」
まだ、重野の気持ちに気付く余裕など、その時はまったく無かった...
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