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第3章~奴ら~
「ねぇ、どうだったの?」
「付き合うことにしたよ、今日迎えに来てくれるの」
(あ~、放課後の楽しみが奪われた)
「そっかぁ、当分パフェも食べられないね」
「あたし、男にベッタリじゃないから大丈夫!毎日会わないし」
「彼氏に悪いよぉ」
(おぉ~持つべきものは親友だ)
「明日はパフェ行こっ」
「うん!」
結局、彼氏がいても、友達との時間が1番楽しい年頃なのである。
つぐみに彼氏が出来て、私には彼氏がいなくなる。
なんて神様は意地悪なんだ。
昼休み、佐久間くんに告げた。
「え?なんで?」
「好きな人が出来たの」
「なんだよー、それ浮気だろ」
(奥さんでもないのに浮気って言わないでよ)
「ごめんね」
「いいよ、好き同士じゃなきゃ、付き合ってるって意味無いしね」
(あー、ほんとは、最初から好きで付き合ってなかったのよ)
「でもさ、友達でいような」
「もちろん!」
なんだか呆気なかった。
まぁ、グジグジ言われるのもめんどくさかったし。
スッキリした、自由の身になった。
「原田!」
重野だった。
「昨日はありがと、今、佐久間くんに言ってきたの」
「そっか、大丈夫か?」
(大丈夫も何もありゃしないし、スッキリ)
「あ、うん、平気」
「森田にはいつ告るんだ?」
「わかんない、今、告ったって彼女いるし」
「そうだな、別れた情報入ったら、すぐに教えてやるよ」
(持つべきものは重野だ!)
「うん!お願い!」
「重野くん、ちょっと」
隣のクラスの女子だった。
「ちょっと待って、今行く」
重野は、それほど外見はカッコよくない、雰囲気がカッコいいタイプ。
何故かモテる、でも彼女を作らない。
私にとって、同い年だけど、お兄さんみたいな人だった...
今日は、週に1度のクラブの日。
全生徒、何かしら入らなくてはならない。
私は絵画クラブに、入った。
絵は下手くそなんだけど、比較的サボっていても怒らない先生だったから。
絵画クラブは、おんなじ考えを持つ"奴ら"のたまり場だった。
本当に絵を描きたい、絵が上手い子は、ほんの一握りだった。
その"奴ら"は、いわゆる、周りから一目置かれる存在の集団。
「はーらーだーさーん、筆かーしーてー」
そのうちの一人が、ニタニタしながら寄ってきた。
「え?忘れたの?これでいい?」
「おぅ、コレ借りんね、あーりーがーとー」
私は、奴らを一目置かず、普通に接していた。
前髪が簾のように長くて、少しパーマがかかっている。
目がどこにあるのかわからないような、当時流行っていた髪型を全員していた。
まぁ、それなりにカッコよく見える。
"奴ら"の中に、一人だけ取っつきにくい奴がいた。
川村くんだ。
たまに、簾のような前髪の隙間からの視線を感じる。
いや、視線じゃなくて睨んでる?とも、取れる。
筆のやり取りも、一部始終ジーッと見ていた。
見られてるのは嫌いじゃないけど、蛇に睨まれるカエルみたいな気持ちだった。
川村くんとは、一言も喋ったことがない。
口数少ないみたいで、でもなんとなく興味があった。
好きとかそういうものではない気持ちで。
なので、週に一度のこの時間は、特殊な"奴ら"と一緒に過ごす、ある意味楽しい時間だった。
「アサミ、じゃ行くね」
「迎えに来てるの?」
「うん、来てるみたい」
校門の方を見ると、何やら人集りが出来ていた。
あの"奴ら"が、校門のとこで、短ランとダボパンの【前に付き出したヘアースタイル】のつぐみの彼氏と、話をしていた。
いや、話じゃなくて、言い争ってる感じだった。
「つぐみ、あれヤバくない?」
「やっぱり...ね。彼さ、結構有名なのよ、他校からも、うちの"奴ら"からも」
「喧嘩にならなきゃいいけど....つぐみ、まだ行かない方がいいよ」
「私が行った方が、話が収まるからさ」
(つぐみ、可愛いだけじゃなくて、カッコいい)
「あたしも一緒についてってあげるから」
案の定、つぐみが行ったら、言い争いは丸く収まった。
その日を境に、つぐみは、"奴ら"から一目置かれる存在になった。
そして、何故か一緒に居た私まで、その存在になってしまった...
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