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第4章~女心~
日差しが強くなってきた。
朝だけど、40分も自転車に乗っていたら日焼けもする。
汗もかくし、キメてきた前髪なんてどこへやら。
1番カッコ悪い、ブラウス首焼けと半袖焼けと靴下焼けも。
(もう!この日差しどうにかならないの?)
「はーらーだーさん」
後ろから呼びかけられ、自転車が横に来た。
当時、出回っていた【カマキリ】タイプの自転車をサドルを低くし、ハンドルも何かしら改造してあった。
(え?!川村くんが喋った!)
「あ、おはよう!」
「原田さんさ、好きな人いんの?」
(朝から何を聞いてくるんだよ、この人は)
「いるよ」
「ふぅーん、へぇー」
ニヤリと笑ってやがる。
かと思えば、
「じゃーねー」
と、かったるそうに走って行った。
ほんとにいまいち掴めない人なのだ。
コイツも3年生と付き合ってるという噂を聞いた。
高校生になると、年上がよくなるのか?
大人っぽい人がよくなるのか?
もうすぐ卒業していなくなるのに。
私なら、絶対同級生だな~。
(森田くん、別れないかなぁ、あの先輩早く居なくなればいいのに!)
女は、時々、残酷な願いを胸に秘める生き物らしい。
(いや、まてよ。3年生はあともう少しで引退だ!やった~!)
自分の良いように解釈するのも、女という生き物ならではらしい。
自転車こぎながら、ニタニタが止まらなかった。
「アサミ、夏休み何してんの?」
「学校の補習講習1日だけ受ける」
つぐみが笑った。
「そんなのいいの、どっか行ったりしないの?ってこと」
「行っても市民プールだなー」
「ねぇ、近くの河川敷で花火しない?その日は彼の家、両親居ないから、泊まりでみんなで盛り上がろうよ」
「誰が来るの?」
「あいつらよ」
あの後、"奴ら"とつぐみの彼氏は同盟を組んだらしい。
何の同盟かは知らないけど。
「全員来るわけじゃないみたいよ、川村くんと高田くんだけ」
(げ!川村くん!)
「アサミが来てくれれば、あと1人、人数合わせでアミを誘ってるの」
(アミなら仲良しだから、大丈夫だー)
まず、高校2年で男の子の家に、ましてや男子と一緒に泊まるなんて、親が目くじら立てて怒って「ダメ!」と言われておしまい。
つぐみはシナリオを用意していた。
当日、自分の親に電話をさせる。
つぐみの家に泊まることにしてあるから、つぐみが母親役になって、私とアミの親に対応してもらう。
つぐみは私と一緒に、アミの家に泊まることにしてあるので、アミが母親役をすることになった。
「ちゃんと、大人な話し方しないとバレるからね」
「えー!ヤバいじゃん!」
(うわっ、あたしが一番ヤバかった)
「アサミ、ヤバいとか言わないからね、あんたが一番母親役向いてないよね」
(その通りー)
当日まで、3人で念入りに練習したのは、言うまでもない。
終業式の3日前に重野から電話きた。
「バスケ部3年生引退したらしいよ」
「別れた情報じゃないでしょ?それ」
(引退なんかするのはわかってんだから、その情報はいらないのー)
「いや...実はさ...森田と女子部長が付き合ってるって、違ったみたいなんだよ」
「えーーーーーー!!!」
両親の部屋の子機で電話してたから、母親がビックリして部屋に飛び込んできた。
(なんでもないから)のジェスチャーをしておいた。
「元々、彼女には中学から付き合ってた彼氏がいて、その彼氏は男子バスケ部の部長で、高校も大学も一緒に行って、将来は結婚しようってことだったんだって」
(私にはそんなの重すぎるなぁ、でも凄いわー)
「で?それから?」
冷静になってみた。
話はこうだ。
要は、その先輩の彼氏が、軽い気持ちでクラスの女友達と2人きりで映画に行った事がバレて、大喧嘩になり、元気のない3年生の女部長を森田くんが心配して、話を聞いたり、相談にのっていたらしいのだ。
そんな二人を見てた子達が、間違った伝言ゲームのように、「付き合ってる」とドンドン広めていってしまったらしい。
「ねぇ、その噂話を信じて、あたしに教えたの、重野だよね?」
「そうなるな」
「バカ!もー!」
「ごめんな」
(ま、ゆっくり告る日を決めて、念入りに計画練っていこうっと)
「原田、頑張れよ、応援してるから」
「うん、うまくいくように祈ってて」
「あぁ....」
「あ、そうだ、あんまり川村と関わるのよせよ」
「なんで?」
「森田はいいけど、川村はやめとけ」
(なんで、あんたにそんなこと言われなきゃならないのだ?ワケわからん)
「はいはーい」
軽く返事しといた。
「お前さ、結構モテてるの、わかってねーだろ?」
「は?あたし?つぐみじゃなくて?」
狐につままれた感じだった。
「相馬(つぐみ)は高嶺の花みたいな感じだから、誰も寄り付かないんだよ、その点お前は違う」
(高嶺の花じゃなくて、何の花なんだよ)
「あたしは全然可愛くないし、アイドルみたいな顔じゃないし、ブスだもん」
「そんなことねぇよ、お前可愛いぞ、俺はそう思う」
ドキッとした。
そんなこと言うような人じゃない人に言われると、意識し始める。
とっても簡単な女心を持つ年頃。
次の日から重野を意識し始める単純な私...
そして....森田くんも川村くんも、私の中で他の男子とは違う存在になっていった。
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