第5章~恋降臨~

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第5章~恋降臨~

夏休みが始まって1週間。 だからなんだ、嬉しくもなんともない。 暇だ。 授業が無いのは、幸せだけど。 みんなに会えないのは辛すぎる。 部活やってるらしいけど、私には関係ないし。 (早く補習講習の日が来ないかなぁ...) 「アサミ~!つぐみちゃんから電話よー」 「はーい、保留にしてー!向こうの部屋でとるから」 (やった!暇人脱出!) 「もしもし、つぐみ?」 「アサミ?今何してる?」 「暇人してるー!」 「じゃ、午後学校おいで」 「なんで?」 「実はさ、彼、あんな感じなんだけど板工のバスケ部でさ、今日うちの高校と練習試合するんだって、今さっき聞いたの」 「マジで?あんなヘアースタイルでバスケ出来るんだ」 つぐみが笑った 「ヘアースタイルなんか関係ないよ、ほんと笑える。森田くん試合出るしね」 「行く!行く!絶対行く!」 「じゃ、2時までに来てね、体育館で待ってる」 さっきまでのウダウダはどこへやら、前髪セットとサイドのカールに命をかけていた。 (森田くんに会える!あーえーるー!) 汗をかかないように、チンタラチンタラ自転車をこいで、いつもの倍の時間をかけて学校に向かった。 まぁ、結局、汗はかいた。 シュッとコロンをつけた。 (前髪は仕方ないとして、いい香りでカバーしよう) 恋する女子の身だしなみ。 当時流行っていたコロンをつけて、女子力アップを狙ったのだ。 「アサミ!こっち!もうすぐ始まるよ」 (森田くん、試合に出てる) 「つぐみの彼は?」 「あそこ」 「どれ?だれ?」 わからないのは当たり前だった。 あの時の【前に付き出したヘアースタイル】じゃなかったのだから。 「つぐみ、彼さ、今の髪型の方がカッコいいと思う」 「でしょ?私はこのギャップがありすぎるとこが大好きなの」 (わーかーるー!わかるっ!) 【前に付き出したヘアースタイル】は、【サラサラ王子様ヘアースタイル】に変わっていた。 前半はうちの高校がリードして終わった。 「アサミ、あたしトイレ行ってくるね」 「うん」 その時、森田くんが、こっちをチラッと見た。 (こっち見た!) そして、私に微笑んだ、気がした。 いや、確かにした。 女の底力で、恥ずかしそうな素振りをしながら、手を小さく振ってみた。 森田くんは、微笑みながら軽く会釈してくれた。 (きゃーーーー!) これはなに? 意思の疎通? 気持ちが通じ合ってる? 何がなんだかわからなくなってきた。 「アサミ?どうしたの?大丈夫?暑くてボーッとなっちゃった?」 「ううん、大丈夫、大丈夫なの、いまね、今、森田くんと、意思の疎通がとれた...とれたの!」 「やったじゃーん、アサミ!」 その後は、つぐみと二人でキャーキャー言いながら、応援しまくった。 試合の結果は、うちの高校の圧勝だった。 「やったー!」 「やっぱり、うちの学校強いよねー、ちょっとあいつを慰めてくるね」 つぐみは、帰り支度している彼のとこへ行ってしまった。 その後、今世紀最大の奇跡が、起きた。 森田くんが、こっちに向かって歩いて来た。 (やだ、やだ、来ないでー) 女の子は、時々、心と裏腹な気持ちになるらしい。 「原田さん、練習試合なのに、応援に来てくれたんだね」 「え、あ、あの、う、うん。つぐみの彼氏が出てるからって、一緒に、行かない?って、誘われて」 「そっか、それでもありがとう」 「うん、あ、あの、えっと、森田くん、カッコよかったよ」 (まだ彼女でもないのに、何を言ってるんだーあたしは!) 「ありがと、この後時間ある?相馬さんと一緒に帰っちゃう?」 「つぐみは、たぶん彼と帰るんじゃないかな、だから私、大丈夫!」 「わかった、じゃあ、体育館のロビーのとこで待っててくれる?」 「うん、わかった!」 遠くの方で、この様子を見ていた、つぐみが「やったね」ポーズをしていた。 思いっきりVサインした。 (まだ告白してないけど、第一関門突破だ!) つぐみと彼氏は、二人で帰っていった。 体育館のロビーで二人を見送った後、森田くんは来た。 「原田さん」 「あ、お疲れ様」 (可愛く笑えてるかな...気になる) 「あそこで少し話さない?」 うちの高校はには、校庭とテニスコートの間に、小さな丘のようなのがあって、そこに、屋根付きの休憩場があった。 (あちゃー、サッカー部、練習してるよー) 「もうすぐサッカー部も練習終わるね、ここだとマズイ?」 「え?全然大丈夫!平気!」 (佐久間くんのこと、気にしてるんだ、森田くん) 「俺さ、佐久間から、原田さんに告白したこと聞いて、正直複雑だったんだ。で、2人が付き合うことになって、もっと複雑だったんだ」 (うそーーー!) 「でね、佐久間がフラれたって報告聞いた時、ホッとしちゃったんだ、佐久間には悪いけど」 (森田くんの噂聞いて、やけっぱちになって付き合ったなんて口が裂けても言えない) 「森田くんは、付き合ってる人いるんでしょ?重野から聞いたよ。」 確信に迫ってみた。 「あぁ、あれね、金井先輩のことだろ?俺も金井先輩も色んな人から言われて、迷惑だったんだ。今はもう金井先輩は森先輩と元に戻ってるんだよ」 「そうなんだね」 (よしーっ!) 「俺さ、佐久間が原田さんのこと好きになったって聞いたとき、佐久間のこと応援しようと思ったんだよ、あいつ、いい奴だからさ」 (それで、あのグーポーズだったんだ) 「あたしね、好きな人が出来たからって佐久間くんに言ったの」 「え?そうなのか...それは言ってなかったな、アイツ。原田さん、好きな人いるんだね」 「うん、いるの」 シーンとなった。 (言え!言え!アサミ!言ってしまえ!) 「森田くんのことだよ、好きな人」 「うそ!ほんとに?俺なの?」 「うん、森田くんだよ、ずっと好きだったの」 「俺も、原田さんのことが好きだった」 「俺達、両思いだったね」 「だねっ」 森田くんの左手が、私の側にきた。 右手をそっと乗せたら、ギュッと握ってくれた。 そのまま、しばらく二人で校庭を見ていた。 原田アサミ、高校2年生の夏、初めての恋が実りました。 恋の嵐は、ここから始まった....
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