第6章~川村くん~

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第6章~川村くん~

ウォークマンから流れてくる大好きなアイドルの曲。 ちょっと切ない曲だけど、私には、幸せな曲に聴こえてくる。 1人で、恋愛ドラマの主人公になった気分に浸っていた。 (手繋いじゃった~次はファーストキスだ!) 肩をバシバシ叩かれた。 「あさみ!つぐみちゃんから電話よ!聞こえてんの?さっきから何回も呼んでるのにっ」 (ウォークマンで聴いてるんだから聞こえるワケないでしょ!) 「はいはい」 「ハイは1回でいい!」 「はーい」 「もしもし?つぐみ?」 「アサミ?森田くんと両思いだった?あれからどうしたの?」 「えへへへー、両思いだったー、付き合うことになったよー」 「やったねー!」 それからずっと、親に怒られるまで、2人で話していた。 次、会えるのは、1週間後の私の補習講習の日だった... その日が来た! いつもと変わらず、朝から前髪とサイドのカールを念入りに。 「学校に何しに行くのよー、補習講習受けに行くんでしょ?まったくもう!」 お母さんのお小言なんか、全然耳に入ってない。 頭の中は、「森田くんと何を喋ろうかなぁ」で、いっぱいだった。 汗をかいて、前髪崩れてもいいように、クルクルドライヤーは持った、コロンも持った。 (よし!準備オッケー) 軽快に自転車をこぐこと20分、とある信号で停まった時....後ろから声がした。 「はーらーだーさーん」 (へ?) 川村くんだった。 「川村くんも補習講習受けるの?」 「そーだよー」 ニヤッと、笑ってた。 (ちゃんと補習講習、受けるんだ) 「偉いね、ちゃんと来たんだ」 「原田さんが、いーるーかーらーだーよー」 (どこまで軽いんだろ、この人) 「へぇー、そうなんだー」 行く先は同じだから、一緒に行くことにした。 「原田さんさぁ、なんか可愛いよね」 (なんかって、なんだよ) 「ありがとう~」 川村くんの言うことは、どこまでほんとで、どこまで嘘かわからないから、適当に返事しておけばよかった。 (こういうタイプが、1番付き合いやすかったりするんだろうなぁ) 「川村くんってさ、彼女いるの?」 「いーるーよー」 「3年生?」 「あーたりー、でも、もうすぐ別れるよ」 (えっ?!) 「なんで?」 「だって、側にいなくなっちゃうから。俺、ダメなんだよねー、近くにいないとー」 (以外とさみしがり屋なんだねぇ) 「だから、原田さんさぁ、俺と付き合おうよー」 (ハイハイ、軽すぎるだろ) 「あたし、森田くんの彼女になったから、無理なの、ごめんね」 「なーんだ、そっかぁー、ざんねーん」 (やっぱり、ノリで言ったな) 「あ、そうだ、花火のお泊まり会、来るんでしょ?」 「いくいくー、もしかして、原田さんも来るの?」 (森田くんの彼女になったから、今悩んでるんだけどね) 「たぶん、ね」 「森田は、彼女が他の男と一緒で夜通し遊んでも平気なんだな、すげーな!」 少し口調が変わった。 「えっと、まだ森田くんに聞いてないの」 「ちゃんと聞いてからにしろよな!」 (さっきと全然違う、キリッとしてる?少し怒ってる?) 「え?あ、う、うん、そうする」 「ま、別に俺の彼女じゃないから、どーでもいーけどー」 やっぱりこの人、わからない...。 「はい、今日の古文の補習講習は終わりです。新学期までに、しっかり今日のところやっておくように。いいな!」 (補習受けても理解できないもんは出来ない!) 「アサミ~またね~新学期でね」 「アサミー、バイバーイ」 みんな帰っていった。 と、思ったら1人残ってた。 川村くんだ。 「帰んないの?」 「森田が部活終わるまで暇でしよ?俺、居てあげるよ」 (大きなお世話じゃー!) 「大丈夫だよ、あと1時間だから」 「えー、1時間も1人だぜ」 「1時間、無理なの?川村くんは」 「むーりー、死んじゃうー」 だんだんコイツの本性が見えてきた。 カッコつけてるけど、ほんとはすごくさみしがり屋で、甘えん坊で、甘ったれなんだ。 「じゃ、居てくれる?」 (お姉さんが面倒みてあげるか、仕方ない) 「じゃーさー、さっきの講習の内容、おーしえーてー、俺寝てたから」 (甘ったれじゃなくて、知能犯だ、コイツ) 「しょうがないなぁ~、まったく!そこ座って!」 なんとなく、川村くんの事がわかってきた気がした。 とりあえず、いい奴だ。 「原田さん、すっげー!」 (あのさ、授業聞いてただけだから) 「これでいいかな?」 「あーりーがーとー、そろそろ森田来る頃だろ?」 「うん、そうだね」 「邪魔者はきーえーるー、じゃーねー」 と言って、サッサと帰っていった。 やっぱり、掴み所のない人だった。 ふと机を見ると、2つに折られた紙が置いてあった。 【いつでも電話していいよー ○○―○○○○ かわむら のりあき】 小さくて可愛い字だった。 思わず笑ってしまった。 すぐに、制服のポケットにしまった。 (森田くんに見られたら、マズイ) ガラガラと扉が開いた。 (来た!) 「遅くなってごめんね」 「大丈夫!」 教室に二人きり。 緊張し過ぎて、喋りたいこと、伝えたいこと、言えなかった。 いつもの私じゃなかった。 でも、幸せだった。 川村くんとは、あんなにリラックスして会話出来てたのに.... ふと、そんなことを考えてしまっていた。
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