第7章~森田くん~

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第7章~森田くん~

あの事をちゃんと言わなきゃ。 「あのね、来週なんだけど、つぐみの彼の家の近くの河川敷で、花火やろうってことになってるの」 「へぇ、楽しそうだね」 「でね、アミと川村くんと高田くんも来るの、で、泊まりなの、行ってもいいかな?」 「俺が、行くなって、言ったら行かないの?」 「う、うん」 森田くんは微笑んだ。 「行きなよ、俺はそういうの気にしないし、逆に俺も縛られるの嫌だし」 ちょっと切なかった。 「行くな」って、言われるのを期待してたから。 「行っても、森田くんは平気なの?」 「だって、それは原田さんの友達関係だろ?俺に決める権限はないし、付き合ってるけどお互い自由だろ?」 (森田くんって、結構、サラッとしてる人なんだ) 「そうだよね」 「どうだったか、教えてよ、ね」 「うん、わかった、じゃ、行ってくるね」 私の中で、付き合うってことは、他の男の子と学校以外で会ったり、遊んだりしたら、怒られるって思ってた。 そういうことだと思ってた。 お前は俺のもの、そんな風に言われるのを期待してたから、ちょっとだけ寂しかった。 森田くんは、私の彼氏像と違っていた。 それでも、森田くんのことが好きだった。 「再来週、部活休みの日があるんだけど、映画観に行かない?」 「行く!行く!」 「じゃ、俺から電話するから」 「うん、待ってるねっ」 アイドルみたいに首傾げて、笑ってみた。 (可愛く出来たかなぁ) 森田くんに、私から電話するのは出来なかった。 親が、とてもうるさいらしい。 自由に電話出来ないのも、私の彼氏像と違っていた。 「途中の信号のとこまで、送っていくから」 (森田くんちは逆方向なのに) 「え?森田くんち、逆でしょ?」 「少しでも、森田さんと一緒に居たいからさ」 (あ~これだよーこれ!彼氏と彼女だぁ~) 「うん、ありがとう」 自分の彼氏像とか、どこかに吹っ飛んだ。 単純明快な私だった。 「ねえ、いつ電話してくれる?」 「うーん、そうだなぁ、再来週の火曜日と水曜日が休みだから、火曜に電話するよ。で、水曜、映画に行こうよ」 「うん、わかった」 信号のところに、着いてしまった。 「じゃ、ここで」 「う、うん、ありがと」 「またね」 森田くんが、右手をパーにして出した。 そこに私の左手を合わせた。 「うん、またね」 まわりは畑しかない、誰もいない、誰も見てない、だからキス?と期待してたけど.... それは無かった。 ファーストキスは、まだ先だったらしい。 花火のお泊まり会よりも、森田くんとのデートのことで、頭がお花畑になっていた。 生まれて初めてのデート。 何を着ていこうか、少しだけメイクしていこうか、色が少し付くリップ買っておこうか、サイドだけパーマかけようか、と、必要のないことまで考え続けた。 (私、森田くんの彼女なんだぁ~) 【彼女】という言葉に酔いしれる、そんなブランドを身に纏う、女子としてランクアップする、自分が可愛くなったような気がする、人から○○くんの彼女だと見られる。と、いうのが【彼女】になった優越感だと思ってた。 少なからず私はそうだった。 可愛い生き物である、この年頃の女の子は... 毎週欠かさず観ているTV番組。 【今週の第1位は!....】 (やっぱりね~!あのアイドルやっぱり可愛いなぁ、あたしもアイドルになりたいなぁ) アイドルになりたい!という、叶わぬ願望はいつも自分の目標だった。 なれないのはわかっていても、望みだけは捨てない、そんな無邪気な年頃。 電話が鳴った。 「おかあーさーん!電話ー!」 出る気配がない。 (もーー!歌ってて、いいとこなのにー!) 「はい、もしもし、原田です」 「もしもし、私、重野と申します。アサ...」 「あ!重野?あたしだよー」 「アサミかぁ」 「笑ったー、重野と申します。だってー!きゃははは」 「うっせーな、それが普通だろが」 「きゃはははー」 「おめぇ、笑いすぎ!あ、そうだ、森田と付き合い始めたんだって?」 「うん、両思いでしたー、付き合ってまーす」 「よかったな」 「うん!うん!ありがとー、再来週、映画に行くのー」 「よかったな」 「あ、なんか用?」 「おー!忘れるとこだったぜ、お前さぁ、帰宅部なんだろ?サッカー部のマネージャーやらねーか?」 「はぁー?帰宅部もちゃんとした部活ですけどー」 「実はさ、ここだけの話にしといてな、5組のアカリがサッカー部のマネージャーしてただろ?」 「あ、うん、アカリね、知ってる」 「サッカー部だった3年の溝口先輩と付き合ってて、妊娠しちゃったんだよ」 (え?今、妊娠って言った?アレしたら、アレが出来ちゃうやつ?) 「夏休み入って発覚したんだよね、それからサッカー部さ、練習ずっと休みでさ」 (そーいやー、サッカー部、校庭にいなかったな、別に気にも止めてなかったけど) 「アカリ、どうするんだろ?溝口先輩もどうなっちゃうんだろ?産むのかな?」 「しらねーよ、俺に聞くなよ。でさ、新しいマネージャー募集中なんだよねー」 (待てよ、バスケ部入る勇気ないし、バスケ部マネージャーは定員オーバーだし、訳もなく森田くん待ってるのも怪しい人っぽいし、こりゃいいかもー) 「やってもいいよー」 「ほんとに?」 ということで、私は臨時のサッカー部マネージャーになったのであった... 森田くんに会えるという下心見え見えの決断だったけど。
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