11人が本棚に入れています
本棚に追加
第7章~森田くん~
あの事をちゃんと言わなきゃ。
「あのね、来週なんだけど、つぐみの彼の家の近くの河川敷で、花火やろうってことになってるの」
「へぇ、楽しそうだね」
「でね、アミと川村くんと高田くんも来るの、で、泊まりなの、行ってもいいかな?」
「俺が、行くなって、言ったら行かないの?」
「う、うん」
森田くんは微笑んだ。
「行きなよ、俺はそういうの気にしないし、逆に俺も縛られるの嫌だし」
ちょっと切なかった。
「行くな」って、言われるのを期待してたから。
「行っても、森田くんは平気なの?」
「だって、それは原田さんの友達関係だろ?俺に決める権限はないし、付き合ってるけどお互い自由だろ?」
(森田くんって、結構、サラッとしてる人なんだ)
「そうだよね」
「どうだったか、教えてよ、ね」
「うん、わかった、じゃ、行ってくるね」
私の中で、付き合うってことは、他の男の子と学校以外で会ったり、遊んだりしたら、怒られるって思ってた。
そういうことだと思ってた。
お前は俺のもの、そんな風に言われるのを期待してたから、ちょっとだけ寂しかった。
森田くんは、私の彼氏像と違っていた。
それでも、森田くんのことが好きだった。
「再来週、部活休みの日があるんだけど、映画観に行かない?」
「行く!行く!」
「じゃ、俺から電話するから」
「うん、待ってるねっ」
アイドルみたいに首傾げて、笑ってみた。
(可愛く出来たかなぁ)
森田くんに、私から電話するのは出来なかった。
親が、とてもうるさいらしい。
自由に電話出来ないのも、私の彼氏像と違っていた。
「途中の信号のとこまで、送っていくから」
(森田くんちは逆方向なのに)
「え?森田くんち、逆でしょ?」
「少しでも、森田さんと一緒に居たいからさ」
(あ~これだよーこれ!彼氏と彼女だぁ~)
「うん、ありがとう」
自分の彼氏像とか、どこかに吹っ飛んだ。
単純明快な私だった。
「ねえ、いつ電話してくれる?」
「うーん、そうだなぁ、再来週の火曜日と水曜日が休みだから、火曜に電話するよ。で、水曜、映画に行こうよ」
「うん、わかった」
信号のところに、着いてしまった。
「じゃ、ここで」
「う、うん、ありがと」
「またね」
森田くんが、右手をパーにして出した。
そこに私の左手を合わせた。
「うん、またね」
まわりは畑しかない、誰もいない、誰も見てない、だからキス?と期待してたけど....
それは無かった。
ファーストキスは、まだ先だったらしい。
花火のお泊まり会よりも、森田くんとのデートのことで、頭がお花畑になっていた。
生まれて初めてのデート。
何を着ていこうか、少しだけメイクしていこうか、色が少し付くリップ買っておこうか、サイドだけパーマかけようか、と、必要のないことまで考え続けた。
(私、森田くんの彼女なんだぁ~)
【彼女】という言葉に酔いしれる、そんなブランドを身に纏う、女子としてランクアップする、自分が可愛くなったような気がする、人から○○くんの彼女だと見られる。と、いうのが【彼女】になった優越感だと思ってた。
少なからず私はそうだった。
可愛い生き物である、この年頃の女の子は...
毎週欠かさず観ているTV番組。
【今週の第1位は!....】
(やっぱりね~!あのアイドルやっぱり可愛いなぁ、あたしもアイドルになりたいなぁ)
アイドルになりたい!という、叶わぬ願望はいつも自分の目標だった。
なれないのはわかっていても、望みだけは捨てない、そんな無邪気な年頃。
電話が鳴った。
「おかあーさーん!電話ー!」
出る気配がない。
(もーー!歌ってて、いいとこなのにー!)
「はい、もしもし、原田です」
「もしもし、私、重野と申します。アサ...」
「あ!重野?あたしだよー」
「アサミかぁ」
「笑ったー、重野と申します。だってー!きゃははは」
「うっせーな、それが普通だろが」
「きゃはははー」
「おめぇ、笑いすぎ!あ、そうだ、森田と付き合い始めたんだって?」
「うん、両思いでしたー、付き合ってまーす」
「よかったな」
「うん!うん!ありがとー、再来週、映画に行くのー」
「よかったな」
「あ、なんか用?」
「おー!忘れるとこだったぜ、お前さぁ、帰宅部なんだろ?サッカー部のマネージャーやらねーか?」
「はぁー?帰宅部もちゃんとした部活ですけどー」
「実はさ、ここだけの話にしといてな、5組のアカリがサッカー部のマネージャーしてただろ?」
「あ、うん、アカリね、知ってる」
「サッカー部だった3年の溝口先輩と付き合ってて、妊娠しちゃったんだよ」
(え?今、妊娠って言った?アレしたら、アレが出来ちゃうやつ?)
「夏休み入って発覚したんだよね、それからサッカー部さ、練習ずっと休みでさ」
(そーいやー、サッカー部、校庭にいなかったな、別に気にも止めてなかったけど)
「アカリ、どうするんだろ?溝口先輩もどうなっちゃうんだろ?産むのかな?」
「しらねーよ、俺に聞くなよ。でさ、新しいマネージャー募集中なんだよねー」
(待てよ、バスケ部入る勇気ないし、バスケ部マネージャーは定員オーバーだし、訳もなく森田くん待ってるのも怪しい人っぽいし、こりゃいいかもー)
「やってもいいよー」
「ほんとに?」
ということで、私は臨時のサッカー部マネージャーになったのであった...
森田くんに会えるという下心見え見えの決断だったけど。
最初のコメントを投稿しよう!