第8章~花火~

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第8章~花火~

「アサミ、明日、大丈夫?」 「うん、大丈夫だよ、5時に電話することになってるよ。お母さん、なんかお菓子とかいっぱい買ってきて、これ持っていきなさい!って」 「そっか、よかった、じゃ、ミスドの前で待ち合わせね、明日ねー」 「うん、わかったー、明日ね」 まぁ、花火するだけだし、男の子と二人きりで泊まる訳でもないし、みんなで泊まるわけだし、ミニミニ修学旅行みたいな感じだし、悪いことしてるわけじゃないし。 でも、ちょっとだけ、ドキドキしてた。 (あ、そうだ、報告しとかなきゃ) 制服のポケットから、紙切れを取り出した。 「もしもし、川村さんのおたくでしょうか?私、原田と申します。のりあきさんはいらっしゃいますか?」 「はーい、ちょっと待っててくださいね」 「もしも~し、原田さん?電話してくれたんだー」 「うん、報告することあったから」 「え?俺と付き合うことにしたって、報告?」 (なんて能天気な人なんだよ) 「違います~、森田くんが行ってきていいよって言うから、明日行くことにしたの」 「それだけ?」 (はっ?お前がちゃんと聞けって言ったんじゃん) 「そう」 「へぇ、森田、平気なんだな、すげーな」 「あたし達、信頼し合ってるからさ」 「あっそ、じゃ、いいんじゃね」 (ムカつく言い方) 「ほんじゃ、切るよ」 (ほんとにムカつく) 「明日ね」 「おう!」 ガチャン!と切った。 もう2度と電話するもんかと思った。 ホントに訳がわからない人、川村。 「アサミー、待った?」 「ううん、さっき来たー、ね、ミスド買ってく?」 「あ、いいね、買ってこ」 「アミは?」 「アミは、高田くんと一緒に、あつしの家に直接行くって」 (ん?アミと高田くん?) 「そうなんだ、りょーかいー」 (もしや、アミと高田くんは付き合ってるな) 女の直感が働いた。 (ってことになると、ラブラブなカップル2組と、何でもない川村くんとあたしってこと?) えーーーー! 「おう!あがれよ」 つぐみの彼氏、あつしくん、今日は【前に付き出したヘアースタイル】じゃなかった。 「こんちにはー、お邪魔しまーす」 「おっ、アサミちゃん」 「はーい、アサミでーす、いつもつぐみがお世話になってまーす」 「おもしれーな、アサミちゃん」 「あつし、もうみんな来てるの?」 「川村だけ、高田達はまだ」 部屋の奥で、はーいと手を上げてる川村くん。 「あー、彼氏いるのに、来てる人だー」 (うるせー!) 「大きなお世話サマー!」 「お前らのやり取り、息合ってんじゃん、おもしれーよ」 ガハハハと笑う、あつしくん。 「やめてよー、息なんか合ってないもん」 「今日だけ、付き合っちゃえよ、お前ら」 「あっ、それいいねー、あつし、良いこと言う」 サラッと川村くんが言った。 (サラッと言うな!) 「川村くんだって、彼女いるでしょ!」 「あ、もう、別れた、だからフリー」 (え?嘘っ...) 【ピンポーン♪︎】 アミと高田くんが、来た。 「お邪魔しまーす、買ってきたぜ、これでいいんだろ?」 袋の中には、缶チューハイ。 (え!未成年だろー) 「サンキュー」 「つぐみ、ねぇ、お酒はダメでしょ?みんな、飲むの?」 「あたしは飲まないよ、男の子達だけね、いつも飲んでるのよ、あの人達」 「うそー!」 知らない世界を垣間見た感じだった。 あつしくんの家は、豪邸だった。 お父さんが、建設会社を自営していて、ここら辺では有名な会社。 昨日から、両親は2泊3日の旅行らしく、私達が来ることもちゃんと知っているそう。 話のわかる両親だった。 女子の電話作戦も、後日もしも親から電話がかかってきても、対応してくれるらしい。 最高な両親だ。 「よしっ、そろそろ行くか」 つぐみのシナリオ劇は、なんなくクリアして、安心して楽しめることになったのだ。 あつしくんの家は、河川敷のそばに建っていた。 「懐中電灯で、足元照らしてな、気を付けろよ。髙田はアミちゃんと、川村はアサミちゃんな」 (やっぱり、そういうことになるよねー) 「原田さん、俺の後に着いてきて」 「うん、わかった」 河川敷へは、道らしいのはあるんだけど、歩きにくい。 「怖いよ...よく見えない」 「ほらっ」 川村くんが手を差し出した。 握るしかなかった。 「ありがと」 「転ぶなよ、この先も石でゴツゴツしてっから」 「ひゃっ!」 石で足を取られた。 「あぶなっ」 すかさず川村くんが、私を抱きとめた。 (やばい、近づきすぎだよ) 「大丈夫か?」 とっさに離れた。 「う、うん」 (森田くん、ごめーん) 無事に河川敷に着いた。 「おーい!始めるぞー!」 「はーい、あつし達は、大きいの担当ね、あたし達は小さいの担当ね」 恋をしようが、付き合うとか付き合わないとか、大人はウザイとか、お酒飲んだりとか、タバコ吸ったりとか、大人ぶってみたりとかしてるけど、その時はみんな小さな子供のように、はしゃいでた。 「いくぞー、今日のメインイベント!火着けたぞー!よしっ!離れろー」 つぐみとあつしくん、あみと高田くん、それぞれくっついて夜空を見上げてた。 と、川村くんが隣に来た。 (えっ?!) 「ほら、大きいのいくぞ」 川村くんが、私の肩に手をまわした。 その瞬間... パーーーーーン! 「うわぁ!綺麗ー!」 「なあ、綺麗だなぁ」 肩に手をまわされたままだった。 なんだか自然とそのままだった。 罪悪感は何故か無かった。 花火がそうさせたのかもしれない。 花火のせいにした....
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