春浅し

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それから一週間。 論文の翻訳、英作といったアシスタント的なことから、 「月刊科学の麻生さんから連絡がありました」 メディアの窓口になったり、 「今夜7時より、アトス製薬副社長との会食があります」 スケジュール管理に加え、式典などへの出席の有無。 「北城大学名誉教授に就任される糸川教授の記念祝賀会の招待状が届いています。北海道なので泊りになりそうですが、出席されますか?」 「いいよ。成瀬さんが同行してくれて、宿泊先の部屋が一緒なら喜んで」 「お花だけ送っておきますね」 招待状に欠席と大きく書いて、泉は封をした。 仕事はさほど難しくないが、不破の誘いは日に日に増してきている。 高校時代、泉が大好きだった顔に大人の色気を(まと)って、甘さを孕んだ視線を惜しげもなく送ってくるのだ。 正直、顔だけなら今でも好みド真ん中。それだけに、あからさまな好意を示され、ついうっかり……なんてことにならないように、十分注意しなければならない。 そんな不破准教授だが、研究室を訪れる学生や同僚、記者などには、男女問わず、ずいぶんと冷めた態度で応対するのが常だ。 一見するとそれは、不遜な俺様気質に映るのだが、才能と実績を兼ね備えた天才がすると、不思議と許容されてしまう。 男性陣は尊敬の眼差しになり、女性陣は憧れと好意しかない面差しで研究室を去っていく。 そして、訪問者が退出した直後から、 「成瀬さん、今晩、食事に行かない? そのあとホテルのラウンジでお酒を飲んでもいいし、そのまま泊まってもいい」 過剰な甘さで、猛烈な誘惑をしかけてくる。 視線を合わさずに、泉は毎回応えた。 「行きません。それから、その視線ウザいです。3秒以上見つめないでください」
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