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高校卒業後、アメリカの大学に進学した泉は、大学時代の友人に誘われるがまま、現地でオンラインゲームの開発を手掛けるベンチャー企業に、広報担当として就職した。
給料はすこぶる良かったが、環境はとてつもなく悪かった。
ここは本当に、残業大嫌いなアメリカなの?
目を疑うほどのブラック企業ぶりに、泉は唖然となった。
社内の過半数をしめるエンジニアたちは、人間であることを半分以上放棄した集団で、なかでも最高責任者であり、会社の代表という立場にあった男は、不健康代表そのもの。
ほぼ週1のペースで、ぶっ倒れていた。
そんな男を間近でみること1年あまり。
「もうムリ、見てられない。見てるこっちがメンタルやられそう」
基本三食しっかり食べ、睡眠は八時間以上を目標にしている泉が、広報業務の傍ら、不健康男の食事管理にはじまり、自宅と会社の強制送迎、スケジュール管理といった秘書業務を兼務するようになった。
「イズミ! 今日はダメだ。今夜中に絶対に仕上げないと、来週の納期が……」
男が泣こうが、喚こうが、怒ろうが、問答無用。
「ダメです。会社の代表たる者は自身の健康管理に気を配り、他の社員の見本にならなければなりません」
「わかってる。だから、今日だけは許してくれ。これが終わったら休暇を取るから」
「休暇のスケジュールはすでに組んであります。変更はできません」
「だったら! あと5時間……いや、3時間でいい。日付が変わるまでには帰るから」
「昨日も同じことを云っていましたが、実際に帰ったのは深夜2時でしたね。ビルの防犯カメラで確認しました。退社時刻を大幅に誤魔化さないでください」
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