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「不破です」
白衣が似合うスラリとした体躯、冷たい印象の端正な顔立ち、サラリとした黒髪と、聞き覚えのあるハスキーな声。
高校時代の記憶が、一気に蘇る。
「成瀬さんには昨年までアメリカで仕事をしていたので、英文作成や英論文の翻訳などの仕事をお任せしてください。それから、彼女は役員秘書の経験もありますので、先生の臨時秘書としてスケジュール管理などの業務も担当してもらいます」
素知らぬ顔で紹介を続ける莉緒那の足を、尖ったヒールで踏みたくなった。
「先生もお気づきかと思いますが、成瀬さんは――」
「青双学園高等学校国際科、成瀬泉さん。僕の記憶によると彼女は、五十嵐さん同様、同じ校舎で学んだ同級生だ」
暗記した文章を諳んじるように一息に云った不破は、少し長めの前髪を揺らし、その隙間から射るような視線を向けると同時に、マグカップを差し出してきた。
「とりあえず、濃い目のコーヒー淹れてくれませんか。僕は早急に、目を醒ます必要がある」
「わかりました」
回れ右をするタイミングを逃した泉は、マグカップを受取り、
「五十嵐さん、給湯室まで案内してください」
バツが悪そうな莉緒那を強制連行した。
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