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「騙したな。なんで最初から准教授が不破君だって、云わなかったの」
水で軽くすすいだマグカップをコーヒーメーカーにセットして、泉は採用担当に詰め寄った。
「いやぁ、まあ、その、なんていうのかなあ。訊かれないことには答えない主義なんだよね」
完全に目を泳がせた莉緒那に、
「辞める」
渡されたばかりの職員証を突き返す。
「待って、待って、そんなこと云わないでよ。とりあえず1か月、やってみようよ」
「嫌だ」
「お願いっ、この通りっ! 特別賞与を支給するように人事部長と掛け合うから」
「……お断り」
「さらに、職員食堂のフリーパス付、あとは来週末あたりに帝国ホテルのディナーにご招待、どう?」
「…………」
泉の心が、揺れはじめる。
「ディナーでは、シャトー・オー・ブリオンの2014年物を進呈……させて頂こうかなぁ」
めったに飲めない当たり年のワインに、心は大揺れだ。
「……しょうがないわねえ」
「やった!」
金と酒につられた泉は、濃い目のコーヒーをたっぷり注ぎ、不破が待つ研究室に戻った。
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