春浅し

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唐突に訊かれ、泉は首をかしげた。 理系の話は脈絡がなくて困る。 「はあ、まあ、嫌いではないですけど。青いバラって、白いバラに青い液体を吸わせたヤツのことですか?」 「ちがいます。種から育てた正真正銘の青いバラです」 「それって、もしかして薄紫に近いバラのことですか」 数年前にテレビで見た気がする。それまで不可能とされてきた青いバラが誕生したと騒がれ、ウキウキして見ていたら、視聴者を焦らすにいいだけ焦らして画面に映ったのは『薄紫のバラ』だった。 「この論文は、もっと濃い青色色素を持つバラを誕生させるための研究です。イメージとしては晴天のような空色、ゆくゆくはロイヤルブルーを目指しています」 「へえ、まっ青なバラができたらステキですね。わたし、アジサイの青が好きなんで」 「成瀬さんは、アジサイが好き……」 不破の目がキラリと光ったことに、泉は気が付いていなかった。 「どこだったかな。参道にたくさんのアジサイが咲く寺がありますよね。梅雨時期になると観光客でにぎわう……」 あれぐらいの規模で青いバラ園があったらいいですね、とつづけようとした泉だったが、 「鎌倉の明月院です。六月になったら二人で行きましょう」 「はっ?」 泉の眉間に皺が寄った。 青いバラの話から、いつの間に鎌倉に行く話になったんだ。 しかも、ふたりで。 「アジサイの青色色素でも採取しに行くんですか?」 「ちがいます。デートに誘っています」 理系の思考回路は、やはり理解しがたい。 にっこり笑った泉は、無言でメールを送った。
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