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その日の昼休み。
泉と莉緒那は、職員食堂で顔を突き合わせていた。
すでに昼食は終わり、コーヒーを飲みながら、話題は自然と高校の同級生だった不破のことになる。
「どうだった? 久しぶりに会った不破君は?」
プライベートな時間ということで、呼び名も『先生』からくだけたものになる。
「どうもこうもないわよ。昔の記憶が蘇らないように、何も云わずにわたしを放り込んだ莉緒那のことを恨みながら仕事した」
「ごめん。でも、本当に急を要していたのよ。不破君の秘書をしていた人が、先月退職しちゃって。下手に若い女性職員を付けるとさあ、面倒なことになりそうで。そのあたり、泉ならわかるでしょ?」
「相変わらずなの?」
「それはもう、来るもの拒まず、です」
冷めたコーヒーに口を付け、溜息を吐く泉を、莉緒那がからかう。
「でもさあ、そんな不破君に告白しようとした時もあったじゃない」
「云わないで、もう一度云ったら、問答無用で辞めるから」
「ごめーん」
まったく悪いと思っていない莉緒那を見て、泉はさらに大きな溜息を吐いた。
ああ、思い出してしまった。
高校時代、夏の放課後。
人生最大の黒歴史を。
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