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エブリスタ限定書き下ろし
*エブリスタ限定の書き下ろし作品です!
3/30 初書き
顔を上げ外を見ると、ふっと白いものが降っていた。
「……………あ、雪」
この村には言い伝えがある。雪の女神様の話。
雪の結晶には女神様の心が宿っているらしい。それは、女神様から出来たもの。雪は女神様の涙らしい。もちろん、そんなのサンタさんと同じで小学生も上級生になればまたまたご冗談を……となる。それは私も。
でも、女神様はちょっぴり迷惑だ。雪が降ると、みんな雪掻きに出る。寒い中、マフラーをして手袋をして、コートを着て必死に屋根の上やドアの前の雪を掻き出していく。でも、数日経つとまた涙が降ってきてしまう。この頃、女神様はどうやら毎日悲しいみたいだ。
「泣かないで欲しいなぁ…」
人は、いつでも泣く。赤ちゃんなら尚更。人生で一度も泣かないなんて事、それって凄いことだと思う。弱い姿を見せたくないだとか、それ相応の過去があるとか勿論それぞれ理由はあるだろうけど。
女神様は一体全体なんで泣くんだろう?村の人達はただ必死に命を灯しているだけで、何にも悪い事してないのに。…たった一つを除いて。
「まぁ、そんな事今更考えても致し方ないんだけどね」
女神様は中々泣き止んでくれない。さらに涙は量を増していく。
まぁ…もうかれこれ一年以上女神様は泣き止んでいないから突然収まるなんて、それはそれで異常かもね。
…村の人達はみんな納得してるのかな。私にこれから起こること。もう当然で、何度も見た光景だから、慣れたのかな?
「ほら、早く付けろ!」
「はい!分かってます!」
「ごめん、ごめんなさい……!」
あぁ、汚い大人達の声が私のいる場所の外からよく聞こえる。そんなに騒がなくってもいいのに。
この村には言い伝えがある。女神様の涙は、悲しみの涙ではなく笑顔の涙だと。人々のうまくいかない生活を嘲笑っているのだと。
村の人達は雪が降ると困る。片付けるのも面倒だ。だから、それを止めようとして、生贄を作る。
「火をつけるぞ!」
「動くなよ!」
「あぁ、どうしてあんな若い子なの?今年の生贄は………」
「しょうがねえだろ!村の会議で決まったんだ!あいつには親も居ないし…丁度良かったんだよ!」
私は、腕も足も動かない。十字架に張り付けられてるんだ。身動きが取れない状況の中、目の前が徐々に赤や黄色に染まっていく様子を見つめた。
「あーあ……やっぱり、救いなんてないんだ」
私の独り言は聞こえない。誰にも。選ばれているのはみんな、必要無い、と言われる人。みんな、犠牲になっていく。
「本当、酷いよね。自分の生活の為に他人を殺しても良いだなんて、そんな風習。悪いのは火をつけたあの人だけじゃない。みんな私を殺す事止めなかったけどね。」
本当はみんな女神様なんて、信じてないんじゃないだろうか。だけど、この異常気象の理由が欲しくって、もしくは邪魔者を排除しようとして、こんな儀式を行っているんじゃないのだろうか。
そう考えているうちに、火はジリジリと私のすぐ下を焦がしていく。もうすぐ、私も真っ黒になる。
「……屋根のあるところでこんな儀式をするなんて。」
今空には雪が降っているのに。もし外だったら雪が消してくれたかもしれないのに。
「まぁいっか。」
私はもう考えるのをやめて、ゆっくりと目を閉じた。そのまま、目覚めることも二度となかった。
この村には言い伝えがある。
雪の女神様の話。
雪の結晶には女神の心が宿っているらしい。それは、女神様から出来たもの。雪は女神様の涙らしい。
その涙を止めるには、誰かを生贄にしなければいけないらしい。
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