第1章 目覚め

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 ”なぜ、一瞬でも、自分自身のことを忘れそうになったのだろう。 私も年なのだろうか。 痴呆が始まったのだろうか。“ そうは考えても、正確な年齢を思い出すことは出来なかった。 ”たぶん、まだ、五十代前半のはずだ。 そう、私は、今度の五月で、五十四歳になるはずだ。 しかし、なぜ記憶の方が後からやってくるのだろう。” 彼は、理解に苦しんだ。 しかし、記憶は徐々に蘇ってくる。 この記憶のこともそうだが、それよりも気になるのは、この自分自身の置かれている状況の方が心配になってきた。 彼は、蘇った記憶をたどっていった。  ”昨日までの私は、あんなに激務をこなしてきていたはずだ。 それに、この部屋はいったいどこなのだ。 仮にも私は、南韓民国の大統領パク・ミョンバクだ。 第一秘書のチェ・テウは、どうしたのだ。” この部屋はある程度綺麗に整頓はされているが、テレビもなければ、電話もない。 カーテンの裏の窓には、格子が掛かっているようだ。 入り口のドアには、窓もない。 あるのは、このゆったりとしたベッドと明かりが点いていない蛍光灯だけだ。
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