恋するケダモノ

2/3
前へ
/5ページ
次へ
 今日乗り合わせた満員電車の大半は、この人間族が占めていた。  こいつら、ほとんど同じ背丈なもんだから尚更窮屈そうにしてやがる。  おっと、よく見たら、随分とひ弱そうな人間族のオスが、四方八方から押されているじゃないか。  害の無さそうな優男なだけに、何だか可哀想だ。  口から内臓が出やしないかと、つい心配になって見遣った。 (……?)  なんだか、顔を赤くしたり青くしたりと忙しい。冷や汗もかいているようで、その匂いがオレの鼻腔をくすぐった。 (おお、なんかすごい良い匂いがするぞ)  なんだこれ。  フェロモン臭に似ているな?  っと、いかんいかん、こんな満員電車の中で興奮してどうするよ、オレ。  咳払いをして、もう一度その人間族の男を見ると――その尻の辺りを、ベタベタと触りまくっている人間族のジジィの手が見えた。 (痴漢だ!)  理解すると同時に、声が出ていた。 「ガオ――!!」  オレの咆哮と化した怒鳴り声に、満員電車の中は葬式のように静まり返った。    ◇ 「あの時は、ありがとうございました」 「う、うん――まさか君が、ウチの新卒くんだったとはね。会社に到着してから、また驚かせられたよ」  あれから一か月後。  オレ達は帰り際、休憩室でコーヒーを飲みながら、思い出話に花を咲かせていた。 「仕事は慣れたかな?」 「はい! 先輩のお陰です」 「いやいや、君が優秀なんだよ。それに、オレの言う事を怖がらないでちゃんと聞いてくれるし――こっちの方が感謝しているよ」
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加