10人が本棚に入れています
本棚に追加
今日乗り合わせた満員電車の大半は、この人間族が占めていた。
こいつら、ほとんど同じ背丈なもんだから尚更窮屈そうにしてやがる。
おっと、よく見たら、随分とひ弱そうな人間族のオスが、四方八方から押されているじゃないか。
害の無さそうな優男なだけに、何だか可哀想だ。
口から内臓が出やしないかと、つい心配になって見遣った。
(……?)
なんだか、顔を赤くしたり青くしたりと忙しい。冷や汗もかいているようで、その匂いがオレの鼻腔をくすぐった。
(おお、なんかすごい良い匂いがするぞ)
なんだこれ。
フェロモン臭に似ているな?
っと、いかんいかん、こんな満員電車の中で興奮してどうするよ、オレ。
咳払いをして、もう一度その人間族の男を見ると――その尻の辺りを、ベタベタと触りまくっている人間族のジジィの手が見えた。
(痴漢だ!)
理解すると同時に、声が出ていた。
「ガオ――!!」
オレの咆哮と化した怒鳴り声に、満員電車の中は葬式のように静まり返った。
◇
「あの時は、ありがとうございました」
「う、うん――まさか君が、ウチの新卒くんだったとはね。会社に到着してから、また驚かせられたよ」
あれから一か月後。
オレ達は帰り際、休憩室でコーヒーを飲みながら、思い出話に花を咲かせていた。
「仕事は慣れたかな?」
「はい! 先輩のお陰です」
「いやいや、君が優秀なんだよ。それに、オレの言う事を怖がらないでちゃんと聞いてくれるし――こっちの方が感謝しているよ」
最初のコメントを投稿しよう!