がさつ過ぎるよ、北上くん

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   こちらへ向き直ったかと思うと、北上は少し屈んで体勢を低くとった。彼は律子に身体を寄せたかと思うと、こちらが怪訝に思うよりも早く、膝の裏と背中に手を触れてきた。そして、その場所を軸に腕で支えるようにしながら、そのまま律子の身体を横抱きにするのだった。 「ちょ、ちょっと! 何……何なの!?」  所謂お姫様抱っこと呼ばれる、これまた少女漫画的な状況なのだが、律子は戸惑いと恐怖の方が先立って、気が気ではなかった。 「やめて……! 怖い、落ちちゃう!」  小さな子どもでもない身体の自分が、そんなことをされる状況がにわかには信じ難かった。163センチと、女子の平均以上の背丈がある律子だ。 抱き上げられた身体は、普段の自分の目の位置とほぼ変わらぬ高さにいる。しかも、それを支えるのは北上の腕のみだ。  それでも北上にはそこそこ腕力があるのか、然程ぐらつくことはなくしっかりと持ち上げられている。だが、根底の信頼関係がないままのこの状況。律子にとっては、不安で心許ないものなのは言うまでもない。 「我慢しろ。お前がいつまでもぴいぴい騒ぐから、俺が連れていって、部員の皆さんに返してやる」 「嘘でしょ!? 私が騒いでたことになるの!?」  この男、自分をまるで客観視できていない。  騒いでいたのは、彼自身だろう。  勇気があれば即座に暴れて抗議してやりたいところだったが、律子にはそれができなかった。この滑稽な状況に気持ちの整理がつかないことと、落下の可能性を恐れて大人しくしているより他なかったのである。非常に不本意ではあるが、北上の首元にしがみついて手近な支えにする。非常に不本意ではあるが。 「……もう何でもいいよ。とりあえず、絶対落とさないで」 「楽勝だっつーの」  諦めに近い境地で律子が言うと、北上は自信を隠すことなく笑みを浮かべた。にっ、と横に広げた口から、透き通るような揃った歯が覗く。  そして、その宣言のほどを見せつけるかのように、彼は律子を抱えたまま階段を駆け上がるのだった。
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