がさつ過ぎるよ、北上くん

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「――とにかく、このまま探しても見つかりそうもねえから、俺は一度部室に戻って珠里を待たせてもらうことにする」  話を巻き戻して、そんなことを言う北上。  部室に戻って云々と言っているが、彼は部員ではない見学者である。何故その立場で、個人的な待ち合わせ場所のように部室を行き来できるのか、その了見が律子には理解不能だった。 「その調子で部室に戻って『珠里が来るまで待たせてください』って、通用すると思ってるの!? 衝撃の図々しさに、鼻血出るかと思った!」 「自分の荷物も部室に置いてきちまったんだよ」 「もう!」  そういえばそうだった。どのみち、北上には一度部室に戻らなくてはならない理由があった。 「……荷物なら私が持ってくるから、君はここで待ってて。珠里ちゃん以外の部員も、君のことは怖がって大変なんだから」  先ほど部室を訪れた際の北上のあまりに荒々しい態度に、部員一同戸惑いと戦慄で、彼に対してはかなり拒否的な空気が出来上がっている。とても部室に再入室できるような雰囲気ではないのである。 「何でそうまでして、俺を部室に行かせたくねえんだよ」  そう言ったのち、はたと思い立ったように、北上は続ける。 「――――あ! さては、やっぱり今、部室に珠里がいるんだな。ちくしょう。危うく出し抜かれるところだった」 「珠里ちゃん関係なく、君はもう部室に行ったら駄目なんだってば!」  踵を返す北上の手首を思わず掴んで、律子は制止しようと試みる。  どうしてこうも話が通じないのだろうか、この男は。  廊下や学年集会で遠巻きに見かけていた頃の彼に対して、少々つんとした印象だけれども格好いい男の子だなあという、実に呑気な夢を抱いていた律子。実際に会話を交わす機会に恵まれたわけだが、現実はつんとしたどころの騒ぎではない。オラついているし、会話も成立しない。 「何て残念な人なの……っ!」  律子は心の内を絞り出すように呟いたのち、歯を食いしばる。  北上との力の差は圧倒的で、律子一人の力では物理的に抑えることは不可能なのは明らかだった。両手でその腕を引っ張ろうとも、北上はそんな律子をずるずると引きずるように歩みを進めて部室がある方向へ向かおうとする。  ただ、そんな微力な妨害だが、彼にとっても煩わしくはあったようだ。 「――――あーもう!」  地団駄を踏むように立ち止まり、彼は苛立ちを露にする。 「分かったよ。そっちがそのつもりなら――」
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