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「ありがとうございます」
そのお茶を一口いただいて、葵くんはほぅっと一つ息をついた。
お茶って落ち着くよね。
「そう言えば・・・」
急に思い出した。
「葵くんて、どこを受けるの?」
葵くんの志望校、ずっと訊こうと思っててずっと忘れてた。
「学校ですか?K大附属です」
「K大附属?」
僕はちょっとびっくりした。
だって、K大附属って・・・。
「奏さんの母校ですね」
志乃さんもびっくりしてる。
「そうなんですか?」
その言葉に葵くんも驚いてる。
「うん。僕、そこの中高大卒。秀兄も」
兄もそこ出身だ。
K大附属は中学はそれほど偏差値の高い学校ではないんだけど、高校からグンと上がって入りにくくなる。内進生とはいえ、そのまま上がれない生徒が出るくらいだ。そして高校は特進と普通コースがあり、特進は成績上位者しか入れない。さらに大学は最高峰ではないけれど、日本のトップクラスの偏差値を誇る。
「秀さんもですか?」
「秀兄は特進から医学部に行って、僕は普通から理学部に行ったんだ」
と言っても年が離れてるから僕が入った時にはもう卒業しちゃってたけどね。
「奏さんも本当は特進へ進める成績だったんですよ」
志乃さんの言葉に葵くんが反応する。
「そうなんですか?」
「まあそうなんだけど、僕はオメガだから入る資格がなかったんだけどね」
その言葉に葵くんは複雑な顔をした。
いくら成績が良くてもオメガは特進には入れない。
特進はベータも入れるけど、ほとんどがアルファだから、どんなに成績優秀なオメガでもそのコースには入るとこができないんだ。万が一の間違いがあったら大変だからね。
「僕は別に、入れなかったからと言って周りも自分の性も恨んだりはしてないよ。入りたいと思ってたわけじゃなかったしね。それに入ったとしてもアルファばかりの中で、たとえオメガでなくてもついて行くのがやっとだと思うんだ。そんな机にかじりついて過ごすよりも楽しんで過ごす方がいいと思ったんだ」
実際、高校生活はとても楽しかった。友達もできたし、色んなことを沢山やった。
「だから僕はオメガが嫌だなんて思ったりしてないよ。それに今までの僕の過去が、いいことも悪いことも、全てが今につながっているのだとしたら、それは良かったことだと思ってるんだ。だってこんな素敵な番に会えてその人の子を授かることが出来たんだから」
今の全てが愛おしい。
今のこの幸せがオメガであるがために与えられたと言うなら、僕は心からオメガでよかったと思う。
その言葉に葵くんの顔に笑顔が戻る。
「オレも、奏さんに会えてとても良かったです」
僕も葵くんと目を合わせて笑った。とその時、志乃さんが僕から湊を抱き上げた。
「ではここからはお2人の時間です。湊くんは志乃がお預かりしますね」
そういうとおむつセットの入ったバッグを持って離れを出て行ってしまった。
それを見送ってお互い顔を見合わせると笑ってしまった。
「行っちゃったね」
「行っちゃいましたね」
そして僕たちはどちらからともなく顔を近づけ、口付けをした。
さっきからほのかに香っていたグレープフルーツの香りが次第に濃くなり、僕の鼻腔をくすぐる。
クリスマス以来のキスにお互い求めて止まらない。
くちゅくちゅと散々音を立てて貪るも、ここはリビング。志乃さんが入ってくるとは思えないけど落ち着かない。
「ベッドに行きましょう」
僕たちは葵くんに促されて寝室へ移った。
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