人類堕天史

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 私の背中には翼がある。  比喩とかそういうのじゃなくて、本当に小さな翼みたいな物体が生えているのだ。 それはなんの前触れもなく、昨夜、突然私の背中に現れた。朝起きたら声が変わっていたという、隣のクラスの男の子みたいに。  真夜中。背中にコリっとした痛みを感じて目覚めた。最初は寝る前に食べたかりんとうが、ベッドの中に落ちていたんだと思った。  だけど、電気をつけて布団を捲っても、かりんとうは見当たらない。  私は痛みが残る右肩付近に左手を伸ばした。すると指先に、なんというか、毛むくじゃらの耳たぶみたいな不気味な感触が。  慌ててパジャマを脱いで、鏡で背中を確認した。  するとまさに白い産毛に包まれた、皺くちゃの耳のような突起物が二つ、だらりとぶら下がっていたのだ。  恐る恐る、もう一度手を伸ばす。付け根の部分は、肩甲骨の一部が変形して飛び出したみたいな、硬く尖った感触。対して、先っぽの方は触ってみても特に何も感じなかった。神経とかが通っていない、ただの脂肪の塊といった感じ。  ともかく、くっ付いている位置とか、形とか、毛が生えてるところとか、総合的に見て翼だと私は判断した。  そんなものが人間に生えるなんて聞いてないけど。  ちなみに、はばたこうとしたら、どこに力を入れていいのかわからず、両肩がグッと持ち上がっただけだった。  起きてすぐに鏡の前に直行し、昨夜のが夢ではなかったことを確認した私は、朝ごはんを食べつつママに尋ねた。 「ねぇママ。私、本当にパパとママの子供?」 「はい? 何言ってんのあんた」 「いやなんか、空から落ちてきたとかさ」 「……変な映画でも観たの?」 「べっつにー。行ってきまーす!」  はい確定。やっぱり、私は天使だったんだ。  ママが強引に話をはぐらかしたのがその証拠だ。なんだろう、自分が特別な存在なんだと思ったら、外に出るのが無性に楽しみになってきた。  私は玄関を飛び出すと、炎天下の中、一目散に学校へと駆け出した。
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