今宵の成り損ない

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 肉厚で色とりどりの背表紙、その一つ一つを私はじっくりと時間をかけ念入りに吟味する。それはたとえば、先ほどの「意見交換会」にやってきた五人の男が私を含めた五人の女を品定めする様子と酷似していた。名前――たしか長谷部といっただろうか、あの自称・医療関係の男が一等私以外の女どもに狙われていたように思う。それはそうだ、だって聞こえがいい。医療関係だなんて、いかにも医者と繋がりがあるように感じられるもの。  常識的に考えて医者には金がある。私の同僚の女はみんな金のある男が好きだ。きっと郁美(私の右隣りに座っていた、ぱっと見清楚な黒髪セミロングの女だ。彼女は私の周囲にいる人間から男女関係なく “実力派ビッチ”と呼ばれ非常に有名な存在である)は今夜、長谷部とホテルで寝るだろう。ただ、彼女が求めているのは長谷部本人ではなく、その奥にいる『真正の医者か、それに準ずるほどに収入と地位のある独身の次男、または三男』なのだけれど。  長谷部はそのことに気づいたうえで、ワンナイト・ラブとして郁美と寝るのだろうか。それともすでに郁美のことを「この女ちょっといいよな、清楚そうだし、案外処女だったりして」だとでも考えちゃっているのだろうか。そうだったら長谷部、可哀相だな。夢、一瞬で敗れるだろうな。郁美めちゃめちゃセフレいるんだよな。まあ私にはべつにどうでもいいことなんだけどな。  私は依然本棚を睨んでいる。男と不必要な会話をした後に買うのは一冊だけ、と決めてあるからだ。そういうルールを設けないと、私は金の許す限り際限なく本を買ってしまう。
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