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僕は本を読んでいるフリをして、でも彼女からの視線に耐えられず本を閉じた。彼女の方を見ると、彼女は暗い瞳で僕をまじまじと見る。
「……死への執着から離れないか?」
僕の口から出た言葉は、意外なものだった。彼女は目を見開くと、僕も同じく目を見開く。まさか自分からこんな台詞を言う日が来るとは思わなかった。
「死にたい、じゃなくて生きたいって思考を変えるんだ」
続けて言うと、彼女がそれを聞いて小さく笑みを漏らす。
「死にたがりの私が?」
彼女が自嘲気味に言うと、僕はこくりと頷く。それを見て、彼女が眉をピクリと動かした。
「この世界の悪い面を見るんじゃなくて、良い面を見る努力をするんだ。そうすれば、もしかしたら生きたいと思うようになるかもしれない」
「無理よ。この世界に良い面なんて無いじゃない」
「僕もそう思うよ。でも、探してみれば身近な所に良い面があるかもしれない」
彼女は頬に力を入れると、瞬きをしてそれから膝を見た。僕は本に視線を戻して、続きを読もうとする。今度は少しだけだが、文字が頭の中できちんと処理されていった。
「じゃあ壱君が私を生きたいって思わせてよ」
彼女がぽつりと呟く。僕は本から顔を上げると、彼女を見ることなくまた本に視線を戻した。
「無理だ」
「どうして?」
すぐに彼女からの返事が返ってきて、僕は吐息を漏らすと本を閉じる。読んでいるページに指を挟むと、彼女に体を向けた。
「僕じゃ、力不足だ」
「そんなこと無いと思うわ」
「青木さんは僕のことを知らないからそう言えるんだ」
「確かに、私は壱君のこと何も知らないよ? でも壱君が力不足じゃないことは分かる」
「どうしてそんなことが言えるんだ」
「さぁね、何となくそんな気がする」
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