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彼女、青木芽郁は若者の間で流行っているエイプリルフール病を患っている死にたがりだ。エイプリルフール病とは、死にたい人間が死ねなくなる矛盾の病である。医療界では起源を調査しているが、未だ解明されていない。そのことから「未知の病」と言われているこの病気を、信じている人間は僅かしかいなかった。
僕も最近まで全く信じていなかったが、彼女によって信じざる負えなくなった。そしてそれを切っ掛けに、彼女はちょくちょく僕に話しかけてくるようになった。
それなのに、彼女は死んだ。死ねない体のはずなのに、死んだ。これは何を意味しているのか僕にはすぐに分かった。
彼女は「生きたい」と思うようになった。「死にたい」ではなく「生きたい」と思うようになったのだ。けれど、彼女の死はあまりにも唐突で僕の脳は処理が追いつかなかった。
「日下部、壱君?」
僕は名前を呼ばれ、後ろを振り返ると彼女の両親が目の周りを赤く腫らしながら僕を見ていた。父親の手元には彼女の遺骨が収まっている。
もうそんなに時間が経ったのか。僕は腕時計で時刻を確かめると、彼女を見送ってからもう3時間は経っていた。僕は椅子から立ち上がると、何て答えればいいのか分からず、無言で頷いてしまう。それを見て、彼女の両親が互いの顔を見合わせた。
「貴方が……壱君……」
彼女の母親はまた涙目になると、僕にゆっくりと近づいた。目元が彼女によく似ている。いや、似ているのは彼女の方か。
「会いたかった……」
彼女の母親は僕の手を握ると、涙を流す。僕は目を見開くと、何て返答すればいいのか分からず固まってしまう。
「あの、どうして僕の名前を……?」
やっと出た言葉を聞いて、彼女の母親は僕から手を離すと、涙を拭って微笑を浮かべる。
「芽郁の日記に壱君の名前が書いてあったの」
「日記?」
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