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溜息を吐いて言う。彼女はそれを見てくすくす笑った。
「大丈夫だって、男子でも私のこと芽郁って呼んでいる子いっぱいいるよ?」
「そういう問題じゃないんだよ」
「じゃあどういう問題?」
彼女はまじまじと僕を見ると、僕は眼鏡を直す。
「僕みたいな地味な奴が、青木さんみたいなキラキラした人間と親しくしていたら可笑しいじゃないか」
僕は自嘲的な笑い声を上げると、彼女がムッとする。眉を顰め、暗い瞳で僕を見た。
「何それ、意味が分からない。地味な人が親しくする人間を縛られるルールがあるの?」
「無いけど、暗黙のルールってものがあるんだよ、この世界には」
「別にいいじゃない、そんなの。破っちゃいなよ」
「嫌だよ、僕は目立つのが嫌いなんだ」
「サボってるくせに。壱君、クラスだとけっこう目立ってるんだからね」
僕は眉をピクリと動かすと、何も言い返せない自分に呆れる。確かに、既に僕はクラスで目立っていた。目立つ、というのは悪目立ちの方だが。それでも目立っていることには変わりない。
「それにサボってるのに勉強はできるし。この間のテストも堂々と学年一位だったじゃない」
「……それは、親がうるさいから」
「大変ね」
僕はまた眼鏡を直すと、線路を見る。茶色く錆びた線路は、電車が通れば一瞬で崩れ落ちてしまいそうだった。だが、そういかないのが線路というものだ。きちんとメンテナンスされている。つい先日もメンテナンスをしていた。そのせいで僕は家から少し遠い別の駅から、別の路線で学校の最寄り駅へと向かうはめになった。仕方ないけれど。
「ねぇ、壱君は毎日どんな本を読んでるの?」
「様々だよ」
「今日は何の本を読んでるの?」
「……本に興味があるの?」
「全然」
彼女はニコニコしながら言うと、僕は溜息を吐く。何となく想像はしていたが、笑顔で言われると若干傷ついた。
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