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僕は鞄から本を取り出すと、彼女に渡した。彼女はカバーがされている表紙を捲るとタイトルを読み上げる。
「どんなお話なの?」
「主人公はどこにでもいる青年、僕みたいな地味な青年だ。そんな青年がある日転校生と出会って変わっていくありふれたストーリーだよ。ただ少しだけファンタジー要素が入ってる」
「ファンタジー要素?」
「転校生は天使なんだ。ちなみにこれは読み始めてすぐに語られることだからネタバレではない」
「最後はどうなるの?」
「それは読んでからのお楽しみさ。僕もまだ最後まで読めていないが、結論は予想が出来ている」
「ふーん」
彼女は僕に本を返すと、僕は鞄にそっと仕舞った。
「壱君は、本の話をしている時はすごく楽しそうだよね」
「……それはどういう意味だ?」
僕は彼女を見ると、彼女が目の前にある色とりどりの広告を眺めながら「んー」と唸る。
「目がキラキラしてる」
その言葉を聞いて、僕は「だろうな」と心の中で呟いた。決して外には出さない。僕の心の中に閉まっておく。
彼女がそうするように、僕も目の前の広告に目を向けるとぼーっと眺めた。
「ねぇ、壱君は私と同じ?」
その台詞に、僕の胸がキュッと締め付けられる。僕は体を硬直させ、しばらく無言で広告を眺めた。やっと体を動かせるようになったとき、彼女の方を向いたが声は出なかった。彼女も僕を見て、視線がぶつかり合う。
「……僕は、違う」
やっと声を振り絞って言うと、彼女が続けるように目で催促する。僕は彼女から視線を反らして、黄色い線を見ると凸凹した点字ブロックを辿るように眼球を動かした。
「僕は、青木さんみたいに死にたいとは思わない」
「じゃあどうして、世界を嫌うような瞳をしているの?」
一瞬、息をするのを忘れてしまった。僕は眼鏡を直すと、横目で彼女を見る。
「そんな目、してた?」
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