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 「私、」と青木芽郁(あおきめい)は言った。  僕は一度本から顔を上げ、彼女を見るとまた本に視線を戻してしまう。 「」  空を仰ぎながら言う彼女に、また視線を向けると、僕は本に栞をして横に置いた。 「か?」  僕は眼鏡を直しながら言う。 「そうよ」  彼女は仰向けになっていた体を起こしてこちらを見ると、澄んだ黒色の瞳が僕を捉える。僕は一瞬ドキリとして、また眼鏡を直した。  エイプリルフール病とは、若者の間で流行している「」のことだ。死にたいと強く思っている人間だけがかかり、にしてしまう。医療界でもその起源は未だ発見されていない。まさに嘘のような出来事であることから「エイプリルフール病」と名付けられた。 「青木さんは、どうやって自分がエイプリルフール病だって分かったの?」 「私、死のうとしたの。リスカで。死亡率低いって言うけど、ちゃんとやれば死ねるし、首吊りや飛び降りよりも手っ取り早いかなって思って。そしたら、死ねなかった」 「……と言うと?」 「カッターで手首を切った瞬間、一瞬でその傷が無くなったの。ちゃんと切ったのに。私慌ててもう一度試したわ。でも、また元通りになっちゃった」  彼女は短く溜息を吐くと、また屋上の床に寝ころぶ。彼女は両手を空に向かって上げると、空を切った。僕は何も言うことが出来ず、ただ無言で彼女を見つめると、いつまでも彼女を見ているのもどうなんだと思い、本に手を伸ばす。 「興味無さそうね」  彼女は僕を見ると、口を尖らせる。僕は本に伸ばした手を止め、膝の上に置いた。彼女はそれを見てくすくす笑う。 「別に興味が無いわけではない」 「信じられない?」
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