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#1
「私、死ねないの」と青木芽郁は言った。
僕は一度本から顔を上げ、彼女を見るとまた本に視線を戻してしまう。
「死にたいのに、死ねないの」
空を仰ぎながら言う彼女に、また視線を向けると、僕は本に栞をして横に置いた。
「エイプリルフール病か?」
僕は眼鏡を直しながら言う。
「そうよ」
彼女は仰向けになっていた体を起こしてこちらを見ると、澄んだ黒色の瞳が僕を捉える。僕は一瞬ドキリとして、また眼鏡を直した。
エイプリルフール病とは、若者の間で流行している「矛盾の病」のことだ。死にたいと強く思っている人間だけがかかり、死ねない体にしてしまう。医療界でもその起源は未だ発見されていない。まさに嘘のような出来事であることから「エイプリルフール病」と名付けられた。
「青木さんは、どうやって自分がエイプリルフール病だって分かったの?」
「私、死のうとしたの。リスカで。死亡率低いって言うけど、ちゃんとやれば死ねるし、首吊りや飛び降りよりも手っ取り早いかなって思って。そしたら、死ねなかった」
「……と言うと?」
「カッターで手首を切った瞬間、一瞬でその傷が無くなったの。ちゃんと切ったのに。私慌ててもう一度試したわ。でも、また元通りになっちゃった」
彼女は短く溜息を吐くと、また屋上の床に寝ころぶ。彼女は両手を空に向かって上げると、空を切った。僕は何も言うことが出来ず、ただ無言で彼女を見つめると、いつまでも彼女を見ているのもどうなんだと思い、本に手を伸ばす。
「興味無さそうね」
彼女は僕を見ると、口を尖らせる。僕は本に伸ばした手を止め、膝の上に置いた。彼女はそれを見てくすくす笑う。
「別に興味が無いわけではない」
「信じられない?」
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