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「今度、どこか行こうか。どこがいい?」
ちょっと泣きそうになっていたのだが、直樹さんの言葉で僕は我に返った。いい大人が恥ずかしいな。
「今、ちょっと立て込んでるからね。もうじき落ち着くから、休暇を取ろうと思ってるんだ」
「ホント?」
それなら僕も有給取らなくちゃ。
「晶はどこに行きたい?」
あっ……今呼び捨てにしてくれた。
いつも「くん」付けだから子供扱いされてるように感じてるから(実際、年下だけど)、ちょっと嬉しい。
「行きたいところ……んー、急に言われても出てこない」
単純な僕は胸がいっぱいになってしまって、何も考えられなくなってしまった。
「欲がないなあ」
直樹さんは笑った。逆だよ逆!直樹さんをひとり占めしたい欲ばっかり!一緒にいられるなら正直どこでもいい。この部屋で過ごすのでも構わない。テレビを見たりちょっと散歩するくらいでいいのだ。ふたりで料理をするのも、いいかもしれないな。
駄目だ。せっかくなんだから、遠出することを考えなくちゃ。でも、なにも浮かばない。
「……考えとく」
結局こんなことしか言えなかったけど、直樹さんはうんうんと頷いてくれた。
「俺も考えておくよ」
「ん……」
しばしの沈黙。
直樹さんの腕の重さを感じながら体をくっつけていると、僕は次第にドキドキしてきた。昨日おとといと、ベッドとソファで別々に寝ていたけど、今夜は……
でも、直樹さんは明日早いのかな。
僕はストレートに訊ねた。
「明日は何時の飛行機なの?」
「ええと……11時半だな。会社に寄らなくていいから、急がなくていいんだ」
「僕も夜勤だから夕方まで空いてる」
今度ばかりはシフトに感謝だ。日勤だったら泣いていた。多分、9時くらいまで直樹さんはこの部屋にいられるだろう。ゆっくり朝ご飯が食べられる。それに……
「じゃあ、夜更かしできるな」
僕の期待を見透かしたように直樹さんがお尻を撫でたので、僕は馬鹿、と言って立ち上がった。まだお風呂を沸かしていない。足早に浴室へ向かいながら、僕は口角が上がってしまうのを止められなかった。
おしまい
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