噓とエッセイ#4『心臓』

1/8
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
   私の心臓は、売ったらいくらになるんだろうか。  昔通っていた病院に、貼られていたポスター。何十万人に一人の難病を持った幼子が大々的に映され、手術はアメリカでしか受けられない。  「○○ちゃんを救うために募金をお願いします」  確か目標は、二億円くらいだったと思う。きっとSNSが発達した今なら、クラウドファンディングで、あっという間に集まるんだろう。  大体皆、一〇〇〇円くらいなら出せる。リターンとして、その子直筆のお礼の手紙でもつければ効果は抜群だ。周囲も生まれた時代に感謝するだろう。  下卑た話はひとまず置いておくとして。とりあえず名前も覚えていないその子に倣って、私の心臓の価値を二億円と仮定しよう。  過大評価なのは分かっている。どんな医療事故の被害者だって、そこまで損害賠償は貰えない。  海外のセレブは、何億円もの離婚慰謝料を請求しているというのに。  それに、二億円をポンと手渡されたって、贈与税はかかるし、確定申告も大変だ。家を建てれば固定資産税、車を買えば自動車税。  何をしたって国や県に吸い取られてしまう。  私の心臓が巡り巡って、インフラの修繕費になったり、老人の医療費に回されるかもしれない。  もしかしたら戦闘機のミサイルに使われたりして。  私の心臓が人を殺す。生まれてこなければよかったと感じてしまいそうだ。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!