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「何を飲みすぎたのですか? 」
「なんで危ないのですか? 」
「熱燗ってなんですか? 」
お酒というものを飲みすぎて酔っ払って足元がおぼついていないことを母はみんなに分かるように丁寧に説明をする。母はきっと去年もその前もそれよりずっと前から蕾の中の花びらたちの質問を丁寧に答えてきたのだろう。何回も何回も同じ質問もされただろう。それでも丁寧に答えてくれるのは母の優しさだ。私たちはやっぱり母の子供なのだ。
母が質問に答えてくれることをみんなが分かったからか、眠るとき以外は誰かしらが母に質問をしている。母が答えないのは眠っているときだけだ。酔っ払いの話が一段落ついてから、母と私たちは眠りにつく。まだまだ蕾の中の私たちは今日も母の優しさに抱かれて眠る。今夜は雪も降っているが昨日よりは寒くない。春が近いからか大人に近づいているからか分からないが昨日より安心して眠れた。
「お母さん、桜さんはまだ咲かないの? 」
久しぶりに葵ちゃんが私たちの下に来た。どうやら私たちの様子を見に来たらしい。ごめんね。まだ咲けないんだ。でも来てくれて嬉しい。
「まだ寒いからねぇ。桜さんも寒さに沢山耐えて温かくなったら一斉に咲くからね。頑張ってもらおうね」
「そのときは写真撮ってね」
写真かぁ。その写真が葵ちゃんの宝物になったら嬉しいな。まだ葵ちゃんの声しか聞こえないけど、きっと可愛い女の子なのだろう。葵ちゃんの姿を見るためにも私は無事に咲きたい。他の姉妹たちも葵ちゃんの声に癒やされているようだ。私たちが葵ちゃんを気にかけるように葵ちゃんも私たちを気にかけてくれている。ならば葵ちゃんの前では綺麗でいたい。じっとじっと寒さに耐えて最高に花開いてみせるから。待っててね葵ちゃん。
母の足元にしがみついていた雪は少しずつ溶けていく。春も大分近くなってきたのだろう。私たちの下を歩く人々の会話も内容もほとんど理解できるようになった。それでも私たちと母のおしゃべりは尽きることはかい。私はある日、意を決して気になっていたことを母に尋ねた。
「母さま。母さまは、おそらく毎年同じ質問をされてきましたよね? うんざりするようなことはなかったのですか? 」
「ないかな? 確かに毎年同じ質問をされるけどね、あなたたちの声も毎年同じ声が聞こえてくるの。私はね、あなたたちが
咲いて散って、生まれ変わってまた私の子供に戻ってきてくれてると思ってるの。何度も何度も私の子供になってくれて、また毎年声は増えていく。可愛い我が子に何度同じ質問をされても可愛いだけよ。私を母と認めて戻ってきてくれるのだから」
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