さくら花びらひらひらり

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 先に咲いた姉妹たちはハラハラと散っていく。悲しくはない。また生まれ変わっても来年の春、同じ母のもとに生まれると知れば、私たちの生もそれほど儚くはないと思う。  最初の花が咲いてから三日目、ついに私がいる蕾が花開いた。はじめて見る世の中というのは常に何かが動いており、こんなに美しいものなのかと私は息を吐いた。流れる雲。歩く人々。散る花びら。影を伸ばす建物。毎年生まれ変わると知っても、私は花開くたびに同じ感動を味わうのだろう。穏やかな日差しの中、私はそれ以上に見たいものをやっと見られた。 「いっぱい咲いてるーー! 」  私たちに毎日おまじないをかける小さな女の子。葵ちゃんの笑顔は可愛らしく、私が想像した以上に綺麗な子だった。葵ちゃんは、私たちの母の幹を撫でた。 「桜さん、明日も会おうね」  葵ちゃんの横で葵ちゃんの母は微笑みを浮かべてその様子を眺めている。優しい母のもとで葵ちゃんも優しい子に育ったんだね。私たちもそうなんだよ。  何度生まれ変わっても、今の葵ちゃんに会えるのは今花開いた私たちだ。散っていくまで葵ちゃんの姿を焼き付けるよ。葵ちゃんが私たちの色をその目に焼き付けるように。きっと来年は少し大きくなった葵ちゃんが私たちを見上げるだろう。その時、私たちは今の記憶はないんだ。今だ。今を焼き付けるんだ。明日散るかも知れないから、今を焼き付けるんだ。 「もうすぐ満開ね」  私たちの母が嬉しそうに呟く。そうだ。どうせなら私たちが一番美しいときまで、散りたくない。一番美しい姿を葵ちゃんに見せたいじゃないか。その一員になれるならば、きっと後悔なんてないのだろう。  母に手を引かれて立ち去っていく葵ちゃんの後ろ姿を見送りながら私は決めた。  桜の花びらに生まれたならば、可愛く美しく力強く生きて儚く散るべきだ。  明日も待ってるよ葵ちゃん。  その晩。小雨が降った。雨に流れて散る姉妹もいる。私は母から離れぬように、まだ散れないと、母にしがみついていた。 「母さま、私、まだ散りたくない。一番綺麗な姿を葵ちゃんに見せたい。誰か一人にこだわるのはいけないことかな? 」  私の質問に母は穏やかに笑う。 「そんなことはないよ。赤ん坊が歩き出したときや喋りだしたときに可愛いと思うのは当たり前の感情なのよ。あなたが葵ちゃんを可愛いと思うのは何にもおかしくはないの。それはね、私があなたたちの沢山の質問を答えるのと全く同じなの。それは嬉しいこと。あなたが葵ちゃんに一番美しい姿を見せたいというなら、そのときまでしがみつきなさい。それは素晴らしいことだから」
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