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誰かに認められるのは嬉しいものだ。その認めてくれたのが、母であり葵ちゃんだ。私は満開のそのときまでしがみつくと決めた。母が見守ってくれている。別れはそれが過ぎてからだ。
日が明けても雨は止まなかった。チラリチラリと姉妹たちが散っていくが、新たに花開く姉妹もある。私は隣に並ぶ木々たちを見る。私たちは、あんな風に咲いているんだ。それを見て誇らしく思う。私は美しい桜の花びら。春の主役だ。きっと姉妹の中には綺麗に散ることを一番に考えるものもいる。咲いた瞬間に散りたいものもいる。色々な咲き方があるだろうが、私はしがみつく。まだ散るわけにはいかない。姉妹たちの咲き方を見ると明日は満開になるはずだ。そう、明日だ。明日、葵ちゃんに会うまでは散れない。
今日の葵ちゃんは雨合羽に身を包んで母と手を繋いで見に来てくれた。今日のおまじないは「桜さん、がんばって」だった。
勇気をありがとう葵ちゃん。明日、一番綺麗な姿を見せるから。
雨は夜には止んだが散った姉妹たちは地面で静かに眠り風に運ばれていく。風に吹かれる姉妹たちもまた美しかった。
「母さま、私、明日までがんばります。きっと明日には満開になれます。応援してくれますか? 」
「もちろんだよ。何かを成し遂げたい子を応援しない訳ないでしょう。あと少しだよ」
母も勇気をくれる。きっと私と同じ想いの姉妹もいるだろう。違うのは私が少しおしゃべりだということだけだ。残る花びらも散る花びらも私の愛しい姉妹だ。母とおしゃべりする花びらも静かに黙る花びらも大切な家族だ。応援してくれない訳がない。
夜が明ける。ふわふわの日差しがゆっくりと私たちを照らす。眠りから覚めた私は息を吐いた。居並ぶ桜の木々は満開と呼ぶにふさわしい装いを見せていた。やはり今日だった。私たちが一番美しいのは今日だった。葵ちゃん、早く来て。一番美しくて可愛い私を早く見に来て。
他の木々の花びらの散りようもまた美しかった。風が吹いて散るたびに人々は、息を吐く。花びらに生まれた私でさえ美しく思うのだ。花びらに包まれる人々は尚更だろう。
お日様が真上に来る頃、葵ちゃんは母と手を繋いで春らしいピンクの服に身を包み現れた。
「わぁ、綺麗ーー! 」
その一言で救われた気がした。散れば私は眠る。その前に葵ちゃんの綺麗になれて良かった。そう思っていたのに。
「明日も会おうね」
葵ちゃんのその一言でまた一日しがみつきたいと思ってしまった。
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