初代聖女は眠りたい

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地球の皆様及び異世界の皆様、おはようございます。 六百年前の某聖女です。 地球と言う世界から聖女になるため異世界に強制連行された私は、小国出身の勇者と共に魔王を倒した後、魔力を使い過ぎて長い間眠りについていたらしい。 らしい(・・・)と言うのは期間の話であって、眠りについたのは覚えている。 事実、私が深い眠りについたのは自らそれを望んだからだ。 魔力の枯渇は理由の一つであって、本当の目的は「誰にも起こされずゆっくり寝てみたい」という希望を叶えてもらったに過ぎない。 無理矢理に異世界へ呼び出され、地球に戻る術はなく、危険な任務を遂行せよと言われた上で「魔王を倒したあかつきには、何でも願いを叶えよう」と言われていたのでそう答えた。 「地球(元の場所)に帰してくれ」と願えば、かるぅいノリで「ごっめーん☆ それは無理なんだ☆」と言われた時には殺意を覚えた。 実際、国の王様がそんな軽いノリで言うはずもないが、いかんせん、情緒と精神を共に不安定とさせていたため、幻覚と幻聴と被害妄想ががっつり入り混じって私にはそう聞こえた。 当時の王様は冨や名誉より睡眠を欲した私に気前よくそれを許してくれた(と思っている)のだが、私に惚れていたらしい勇者が許してはくれず「結婚するって言ったじゃないか!」と叫ばれたので丁重に「無理」とお断りしたところ、愛が憎しみに変化したらしく「寝ている間にあーんなことやこーんなことをしてやる!」と脅してきたので、触れられないよう透明な結晶の中に閉じこもらせて頂いた。 ざまぁみろである。 寝ていたから知らなかったけれど、残された文献には「聖女が眠りにつき、勇者は泣き崩れて、悲しみのあまり正気を失い、聖女を閉じ込めた結晶に恨み辛みを刻み残した」って書いてあった。 自分が目覚めた時には布団替わりの結晶なんて破片も残ってなかったので「なんて書いてあったの?」って、私を起こした神官に聞いたら、顔を真っ青にしながら震える声で「ち、“ちっぱい”と記述がございました」と教えてくれた。 すっごい笑顔になるよね。こういう時って。 もちろん、悪い意味で。 さっさと勇者本人――は無理だから、末裔連れて来いと満面の笑顔で言い捨てたので、たぶんそろそろ末裔(生贄)が差し出される頃だと思ってる。
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