悪役令嬢の最後の一手

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 家の茶室で、新しい婚約者に会った。  卒業パーティーの会場の外で会った、魔術の扱いが上手い男。この男、領地持ちの伯爵だったらしい。  王子の浮気による婚約解消の代償の一つに領地があり、その領地がこの男の領地の隣だとかで婚約者に名乗り出た。  というのが、表向きの話。  表があるなら当然裏がある。  お茶とお菓子の準備がなされ、侍女たちが距離をとると、アルカトースは透明な水の幕で結界を作った。  外側から様子は見えるが、内側からの声は聞こえない。少し内部が歪んで見えるせいで、読唇も難しくなる。 「卒業パーティーでのシャンデリア落下事故についてご存知の事はありますか?」 「わたくしは知る立場ではありませんので、死者が出なくてよかったくらいでしょうか」  落下事故ね。  事件にならないならもうどうでもいい。貴族らしく、微笑みを浮かべてお茶会を終えることに尽力いたしましょう。  あの日、彼女の顔半分は血に染まっていた。  赤いドレスを好むだけあって、彼女は血の色がよく似合う。そして、婚約者の王子を心配するご令嬢に見えた。  けれど彼女はあっさりと婚約者を置いて去る。今や聖女と名高い人物との関係を受け入れているようでもあった。  近年稀に見るやらかした世代だと知らず、なんともめでたい初感だ。  アルカトースは卒業式の日に来賓の一人として参列しており、卒業式後は恩師の元を訪ねていた。  長居して、そろそろ帰ろうかと卒業パーティー会場の側を通ると、衛兵たちが右往左往している。彼らより卒業生の地位の方が高く、対応に苦慮していた。  中の様子くらいみてやるかと、会場に向かえば女の声がした。 「王宮に急ぎ知らせを。殿下が負傷されました」  銀髪に闇色の瞳。王宮を、殿下を気にする姿に殿下の婚約者と見てとれる。よく教育されたお嬢さんだと、好意的に見てしまったからこそ事後処理に巻き込まれた。  実態を知れば、笑うしかなかったが。  ある意味君ら、人生かけて恋愛しすぎ。  どいつもこいつもヒドイ。  婚約破棄されたお嬢さんたちに結婚しなくてよかったと、声をかけてあげたくなる。  どろどろした恋愛事情。誰が刃物持って暴れてもおかしくない人間模様で、シャンデリアの落下が事故はない。  事故はありえないが、事件にするための証拠が見つからなかった。  それでも怪しい人物はおり、公爵令嬢はその1人だ。 「シャンデリアを吊り下げていた金属が腐蝕していました」 「欠陥品だったのです?」  何も知らないとばかりに問う姿は、頭の中お花畑を疑いたくなる。 「経年劣化として処理されていますが、闇属性の魔術にそれを可能にする魔術がありますね」 「そうですね。腐蝕属性というのがありますから、チーズやお魚を作るのに向いているそうで、領地の特産品で試してみたいですね」  この面の皮の厚さは嫌いじゃない。  血塗れの君に一目惚れとは、我ながらなかなか悪趣味ではある。だか、君となら退屈しない人生を送れそうだ。
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