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さすがヒロイン。優秀よね。
天才が使う魔術のおかげで、シャンデリアにある闇魔術の痕跡は消えた。
過剰な範囲魔術のおかげで天井も範囲に入っており、そちらも痕跡が消えている。
攻略対象たちは癒され、死の危険からは脱した。しかし、直ぐには起きられないようで、断罪する元気はなさそう。
さあ、全部うやむやにしてしまいましょう。
慌てることなくヒロインから距離をとる。静止の声はかからない。
注目されていないのをいいことに急足で大広間を出る。
廊下に衛兵が集まって来ていた。
何か言われる前に口を開く。
「王宮に急ぎ知らせを。殿下が負傷されました」
手当をと言い出す衛兵をに伸ばされた手を弾き、怒鳴る。
「そんなことより殿下の救援が先です」
さっさと散れ。
王子が目覚めて断罪してくる前に出ていくの。
「お嬢さん、落ち着いて下さい」
衛兵のむこうから声がする。
上役の騎士が出て来たようだ。
衛兵が左右に分かれ、前は空いたが、これでは逃げられない。
騎士は次々に衛兵に指示を出す。
「現場には治療できる者を送りました。王宮にも伝来を出しています。次はあなたが治療を受ける番ですよ」
「必要ありません。範囲治癒魔術を使った方がいましたので、血はもう止まっています」
だから、帰らせろ。
「では、血を流させて下さい」
答える前に、額の前に手をかざされた。
この人、めちゃくちゃ魔術操作上手いわ。
水は温く、冷たさを感じさせない。顔や首の血を流した後は服を濡らすことなく消失させ、血が流れきると顔をふく必要もないなんて上手すぎる。
「ありがとうございます」
「女の子の顔に傷が残らなくてよかった」
男の視線がリディエスタの背後に向かう。視線を追って振り向けば、上半身を起こした王子とユミアが抱き合っていた。
「御伽噺の終幕の様ですね」
絵本ならハッピーエンドとでも書かれているだろう。
悪役としては幸せな終わりではなく、幸せな終わりである事を願ってやまないわ。
初恋の終わりに相手の幸せなんて願えないし、婚約者略奪なんだから不幸を願われるのは当然よね。
「あちらへ戻らなくてよろしいのですか?」
「今更野暮でしょ。このドレスではパーティーも楽しめないし、帰らせていただきますわ」
衛兵が馬車を呼びに走ったので、ゆっくりと歩いて行くことにする。
貧血になるほど出血ではないが、治癒に体力をとられたようで身体がだるい。
けれど、今は断罪パーティーを潰せた事を喜ぶといたしましょう。
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