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言葉を途切れさせるミレイユを見て、男が細くため息をつく。
「わからない、ねえ。いつまでそう言っていられるんだろうな」
そうしてゆっくりと立ち上がり、椅子を脇に置くとミレイユの前にしゃがみ込んだ。
距離が近づき、ミレイユは身体を硬くする。
「ご令嬢が口を割りたくなるように、別のことを試してやろうか」
酷薄そうにせせら笑う彼を見て、心臓がすくんだ。
──助けて、お願い。
普段祈りには無縁のミレイユも、この時ばかりは何かにすがりたくなった。
しかしすぐに思い直す。
もし救いの手が差し伸べられるとしたら、もっと前にいくらでも機会があったはずだと。
諦めを胸に、ミレイユは男を見上げ、動向を探った。
「……へえ、意外と勇敢だな」
するとなぜか彼は嬉しそうに目を細めた。
視線をそらせば何をされるかがわからない。ミレイユにとってはそちらの方がはるかに恐ろしかった。
殴られるにせよ、相手の動きがわかれば身構えられる。防ぐことができなくても、覚悟はできる。
ただそれだけの話だ。
けれどもし相手がサディストだったら。反抗的な方が痛めつけ甲斐があるなどと考えるかもしれない。
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