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牢の中で
一条の光すら届かない牢の中、小さなランプから漏れる頼りない光に照らされかろうじて見える人影は、長身の青年のものだ。
短く刈られた鈍色の髪に琥珀色の瞳が印象的な美丈夫は木製の簡易な椅子の前後を違えて腰を掛け、背もたれを抱え込むようにしながらミレイユを見下ろしていた。
「女、もう一度聞く」
「……は、い」
聞き取りにくいかすれた声での応えに、青年は表情を動かさずに続けた。
「不正を認めろ」
この問答はすでに片手では数えられない程繰り返されている。
「……ごめんなさい」
謝罪を告げると、男の眉がぴくりと跳ねた。
「今のは何に対しての謝罪だ?」
「わからない、ことへの」
男はしきりにミレイユを断罪するものの、当のミレイユにはその内容について心当たりがない。
いくら知らないと告げても、彼は納得しなかった。
不安でミレイユの呼吸は浅くなり、息を吐くたびに目の前が白く濁った。
この場所は暗く冷たくて、ドレスの薄い生地では体温を維持することは難しい。
細かに身体が震えるのは寒さももちろんあるが、恐怖心も大きかった。
鉄製の手枷で縛められ、見知らぬ男と牢に二人きりにされれば無理もない。
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