ミカルの狙い

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 普通の人間ならば理性を保つことなどできない。過ぎた快感に体が耐えられず、遅かれ早かれ意識を失う。  しかしミカルは俺の吸血に気絶どころか理性すら保っている。その精神力に驚くと同時に、やはり厄介な相手だと腹立たしくなる。  ふと、ほのかに血の味に混じりけを覚えて俺は口を離す。 「なんだ、これは? 花の香?」 「あ……ええ、実は趣味で紅茶に花を加えて楽しんでいるんですよ。最近は自作のバラの花を加えるのが気に入っておりまして。香りが血に混じっていましたか?」  バラという言葉を聞く手前から、鼻へ抜けていく香りの正体に気づいてしまい、俺は顔をしかめてしまう。 「ああ、しっかりとな」 「お口に合いましたか?」 「極上の肉料理に香水をぶちまけられた物を、お前は美味しく食べられるのか?」 「……すみません、それは辛いですね」  俺の不快さがしっかりと伝わったようで、ミカルは頬を掻きながら苦笑する。 「バラは魔を退ける花。その力の恩恵を受けたくて、茶として嗜んでおりましたが……まさか血にまで浸透しているとは思いませんでした。カナイに致命傷を与えるほどですか?」 「いや、そこまでではないが……」 「ではこれから慣れて下さい。私は今の力を保つ必要がありますので、嗜むことをやめる訳にはいきません。多少不味いほうが、飲み過ぎの防止になりますし」  ……お前の『すみません』が、どれだけ軽いものかよく分かったぞミカル。  食事を与えられるだけマシなのは分かっている。  それでもこれはミカルなりの拷問なのかという気すらしてしまい、俺は口を閉ざしながら、恨めしさを乗せた眼差しを送ることをやめられなかった。
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