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「フン……お前は退魔師に成り立ての頃から、ずっと俺に挑んできたな。十年か?」
「十三年です。二百歳を超えた貴方からすれば、些細な違いでしょうが――」
おもむろに伸ばされた手が、俺の顎をクイッと上げる。
「この三年が大きかった……今の立場を手に入れ、術と知識を身に着け、必要な準備を終えた――絶対に逃がさない」
切れ長の青い目が細まり、視線で俺を射る。この命どころか魂すら消し炭にしたいのだろうか。
ここまで頑張った人間に、もうこの身をくれてやってもいいか。
一瞬俺の胸に投げやりな感情が走る。だが、
「カナイ様!」
突如、聞き慣れた低い声で呼ばれたと思えば、俺の胴体へ飛びつき、地を蹴ってこの場を離脱しようとする者が現れた。
俺を捕らえていた結界を力づくで破り、俺を連れ出したソイツからは、濃厚で鮮やかな錆のにおいがした。
「ヒューゴ……っ! なぜ来た? 俺は捨て置けと言ったはずだぞ!」
弾かれたように顔を上げれば、精悍な横顔に必死の形相が浮かび、血に塗れていた。剥き出した歯から覗く鋭い犬歯。焦げ茶色の短髪から生えた狼の耳。俺に怒鳴られて、金色の目が苦しげに細まる。
人狼のヒューゴは俺の忠実な僕。
いつだって俺の言うことを聞いてくれた――それなのに、この大事で逆らわれるとは。
睨みつける俺をたくましい腕で抱えながら、ヒューゴは短く首を横に振る。
「貴方様がいなければ、遅かれ早かれ全滅する……皆の総意です。そしてクウェルク様の命でもあります」
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