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クウェルク様。その名を出されて俺は口をつぐむ。
人間どもは俺を王と呼ぶが、それは人を欺くために騙った肩書き。
本来の俺など、ただの吸血鬼。
真の王は――魔物を統べる王はクウェルク様だ。
王の決定に逆らうことなどできない。俺は無謀な奪還をするしかなかったヒューゴの頭を撫で、ささやかながら労う。
「……わざわざ済まない。皆、避難は終えたのか?」
「はい。後はカナイ様だけです」
「そうか。それなら――」
俺を降ろして走らせろ。ともに逃げるぞ――と気持ちが固まりかけた時だった。
後ろから俺の背に何かが投げつけられる。
刹那、俺の全身に激しい痺れと閃光が走った。
「うあぁぁ……っ!」
背中の感触から、小さな石を繋いだ物がぶつけられたのは分かった。
恐らく退魔師の首飾り――聖石を連ねて作られたそれは強力な結界となる。
誰が投げつけたのかは考えるまでもない。
膝をついてしまった俺の腕を掴み、体重をかけて俺を地面へ抑え込んでくる。
どうにか首を捻って忌まわしいその顔を見れば、ミカルが険しい顔をして俺を捕らえていた。
「カナイ様っ! 今お助けを……っ!」
「来、るな、ヒューゴ……っ……行け……お前は、生きろ……頼む、から……っ」
上からの圧迫に喘ぎながら俺は必死にヒューゴへ訴える。
足を止め、俺に手を伸ばして駆け付けようとするヒューゴを、ミカルが声を低くして冷たく言い放つ。
「たかが下僕の人狼が、私に敵うとでも? 貴方を一瞬で滅してみせましょうか?」
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