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挑発されてヒューゴが「く……っ」と悔しげに声を詰まらせる。
悔しいことにミカルの言っていることは真理だ。この男は強い。満身創痍のヒューゴが敵う相手ではない。
「行け……っ、俺の元から、追い出されたくなければ……っ」
力の入らない体へ鞭を打ち、どうにか俺は指示を出す。
ヒューゴは俺に付き従うことがすべてのような奴だ。到底俺の言葉は呑めるものではないだろう。
それでも俺のために無駄死にはして欲しくなくて、必死に逃げるよう訴えれば、わずかに瞳を潤ませた後、ヒューゴは俺に背を向けて走り去った。
姿はすぐ闇に紛れて見えなくなったが、離れていく気配をまだ感じる。
絶対に追わせたくなくて、俺は手を動かし、腕を捕え続けるミカルの袖を掴んだ。
「お前の相手は、俺だ……っ……少しでも隙を見せてみろ……その首、噛み千切ってやる」
圧倒的不利な状態からの牽制。
ミカルから返ってきたのは――小さな微笑だった。
「隙なんて見せませんよ……ようやく貴方を手に入れたというのに、逃がすような真似はしません」
そう息をつきながら答えた後、ミカルが俺の耳元で囁く。
「私の手から、絶対に逃がしませんから……カナイ」
やけに湿った、熱い声。
耳を通して俺の中へと入ってきたミカルの声に、体の芯まで絡まれ、すべてを奪われたような気がした。
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