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入念な準備?
◇ ◇ ◇
目を覚ましたのは、宵の刻へ入り立ての頃――闇を生きる吸血鬼にとっては早朝に等しい――だった。
「……ん……」
見慣れぬ赤い天蓋が寝起きの視界に入ってくる。
ゆっくりと辺りを見渡すと、左右の視界に白いシーツが広がっており、立派なベッドへ寝かされていることを知る。
蝋燭が灯された部屋も造りがいい。大きな窓を遮る分厚い臙脂色のカーテン。淡い夕焼けのような色の明かりに染まった乳白色の壁。警戒心が強くても安堵感を覚えてしまう部屋だ。
来賓用の寝室だろうか? てっきり牢にでも入れられると思っていたのに。
どういうつもりなんだ、あの男は。
顔をしかめながら体を起こしかけ――手足が動かせないことに気づく。
顔だけ動かして手を覗き込めば、手首に聖石を連ねたものが絡められていた。
魔を抑え込む聖石。おそらく両手足に取り付けられたのだろう。俺を逃がさないために。
完全に捕らえられてしまったことを実感して息をついていると、飴色の扉が静かに開いた。
「ああ、目を覚まされましたか。おはようございます。気分はいかがですか?」
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