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どくり、と俺の胸が脈打つ。
人に戻れる――いや、今さら戻ってどうなると?
そもそも人の何が良い? 人は俺に何をした?
なぜ魔を無くすことを良しとする? 俺に救いの手を差し伸べ、受け入れ、居場所を与えてくれたのは、いつだって魔の者たちだったというのに。
沸々と込み上げる怒りで俺は食いしばった歯を剥き出し、拒絶を露にしてしまう。
協力なんてするものか! と怒鳴りつけようとした矢先、ミカルが話を続けた。
「もし貴方が協力して下さるなら、研究の結果が出るまで他の者には一切手出しをさせませんし、これから先の命の保証と、人に戻った後に生涯苦労しない生活を約束します。しかし、もし断ると言われるなら――」
「俺の腹に杭でも打ち込んで、長々と苦しめる気か?」
「別の魔の者に試薬を与えるまでです。貴方が体を張って守ろうとしていた者たちを、未だ我が退魔師協会の者たちが追っています。もう一人捕らえろと私が命じれば捕らえてくるでしょう」
……俺に拒む権利はないということか。
大きく息をついて怒りを逃がした後、俺はミカルから目を逸らす。
「好きにしろ。その代わり、他の者たちには手を出すな」
「約束しましょう。見たところ、貴方の下僕と若い魔の者ばかり。見逃しても大局に影響はないでしょうし……」
不快な表情を保ちながら、俺は内心安堵する。
俺の目的はクウェルク様を逃がすこと。それが果たせるならば、この身が滅んでも構わない――ヒューゴを思うと、生きることに未練は滲むが。
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