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それからもう何人かがこの家に住んだが、みんな気味が悪いとすぐ退去し、噂のせいか誰も住まなくなった。
「…でも、そっちの方が気楽でいいじゃん。誰も気づいてくれないんだからさ!」
音のある生活で誰にも気付かれないよりも、何もない方がまだ心穏やかでいられた。
「どうせ、ここからは出られないんだし…」
心臓に手を当ててみたけど鼓動は聞こえない。
熱も、寒さも感じない。
「…っ、うっ…ひっく、……さ、びしいよぉ…っ、」
けど、どうしようもない寂しさだけはある。
いくら嗚咽を漏らして泣きじゃくっても、自分がなぜここにいるのか
どうしてこんな目に遭っているのか何一つ分からない。
ただ、ひとり白い床に寝そべって無の時を過ごした。
そんなある日。テレビの撮影班がこの部屋を訪ねてきた。
ホラー特番の企画でどうやら事故物件を取り上げるらしい。
ゲストの霊能力者やお祓いするためのお坊さんが部屋に入ってきた瞬間は期待したが、どっちも俺の存在に気づかなかった。
お経も何を言っているのかちんぷんかんだ。
(俺、実は死んでないとか?)
曖昧な記憶。特に未練らしいこともなにも思い出せない自分は幽霊ではないんじゃないか?
そう信じたかった。
『ここは、1人の大学生が首を吊って自殺した部屋です』
もう声をかける気にもなれず体育座りして撮影現場の野次馬と化す。
『彼の恋人は某有名雑誌のモデルだったそうですね。ファンからの強い非難、誹謗中傷で鬱になっていたと聞きます』
(おっかしぃーなー)
こういう展開って、実は意識不明でも肉体はどこかの病院で入院してるもんだろ?
しかも俺には恋人いた上に同性愛者だったんだ〜。
何一つ腑に落ちない自分の説明をされても…記憶は甦らない。
『では、先生。この部屋の霊視をお願いします』
分かりました。と深刻そうに頷き、いかにも霊視してます雰囲気を出すインチキ霊能力者。
『まず、分かったのはここにいるのは、彼だけではありませんね。複数の怨念が複雑に絡み合っているようです。みんな、自分達が死んでいると認識できていないのでしょう』
そう霊能力者は語り、とっさに嘘だ〜と思わず声をあげてしまったが、誰にも聞こえちゃいない。
けど死んだことを認識できていないって指摘は正しい気がした。
幽霊とは生前の未練だけに執着し、あとは興味がないのだから覚えてもないし、見えていないのだと語る。
(悔しいけど、そうなんだろうな……まぁ俺はその未練すら覚えてないんだけどさ)
なにが心残りで、恨みつらみだったのかは分からないけど……。
撮影は順調に進み、特別企画のコーナーに移る。
どうやら芸人の男が1人でこの部屋に泊まるらしい。
監視カメラを数台と男と俺。
演技なのか酷く怯える様子の男を置いて、そそくさと撮影班達は撤収していった。
(別に何もしないってのに…)
誰も俺に気付かない。
ひとりぼっち
考えることはやめて、もう硬く口を閉じた。
「あれ?」
「お?どうした?」
「これで全員か?アルバイトぽい男の子がいなかったか?」
そして後日。この番組は某刑務所内でも放送しており、
この映像を偶然見ていた男がいた―――――。
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