32人が本棚に入れています
本棚に追加
/26ページ
「大前さん。最近引っ越したんですよね?」
「あぁ、そうだが?」
帰り際、事務所を出る前に1人の部下にそう尋ねられた。
「ちゃんと防犯システムがしっかりしたところに住んでますか?今日の客、最後すげぇ顔してましたから」
「はは、いつものことだろ。クソでも真面目な客ばっかだと俺らも楽なんだがなぁ…」
闇金業者。
客はどうしても金がないから貸してくれと乞う。どうして当日にそんな大金が必要なのか…。よっぽどでない限り真っ当に働けば貯められる額だろうに、それもせずに楽に稼ぐことばかり考えて酒、女、ギャンブル、借金返済に溺れる。
そんな奴らに甘い顔をするはずもなく、今日もロクでもない客の世話焼きという名の取り立てに追われた。
「んで、新居はいいところにしたんですか?」
「まぁ不自由はしてないな。あと引っ越しつーより、借り暮らしみたいなもんだ」
家に1人残してきた彼のことを思い出し、男は…大前敦己(おおまえ あつき)はクスッと小さく笑った。
とある事情からアオには”龍”と名乗り呼ばせているが…。
(今頃、退屈だと拗ねてなければいいが…)
退屈しのぎに最近流行りのゲームでも買ってやるべきだろうか?
「ま、まさか恋人ですか!?」
「遅かれ早かれ、そうなればいいなぁと思っている」
「大前さんが落とせない相手とか想像できません…」
一体どんな美人ですか?
と問われたので、やんちゃで手のかかる仔犬みたいなやつだよ。と答えた。
最初のコメントを投稿しよう!